2007年 01月 05日
財務省によれば、今年度予算の税収見積もりは総額で50兆円。当初予算よりも4兆円の増額となることが明らかになった。その大きな理由として、景気の回復によって法人税収が好調となっていることが挙げられる。 実は昨年度においても、当初予算より税額が増えている。昨年度は、補正予算の際に3兆円を上積みし、さらに決算の際に2兆円が加わり、合計5兆円も税収が増えたのである。 財政状態が上向くのは喜ばしいことである。だが、これだけ財政がよくなっているというのに、不思議なことに消費税を引き上げようという声は、けっして小さくなることがない。それどころか、定率減税の全廃という実質的な増税が決定してしまった。これはおかしいのではないか。 いつのまにか、国民の大多数は「消費税率の引き上げはやむを得ない」という考えを持たされてしまったようだが、それは本当なのだろうか。もう一度じっくりと検討する必要があるとわたしは思うのだ。 財政の黒字化、可能性は来年度にも ご存じのように、日本政府は大きな赤字を抱え、財政再建の真っ最中である。そして、「2010年代初頭までにプライマリーバランス(基礎的財政収支)を黒字化する」という目標を立てている。 プライマリーバランスというのは、国の収入(歳入)と支出(歳出)の釣り合いを表した数字だ。この数字には、国債の発行や元利払いなどは含まれない。要するに、純粋な財政収支を示すものだ。この収支がちょうど釣り合っていれば、借金の対GDP比は増えも減りもしない。一般家庭に例えれば、借金の返済は進まないものの、毎月の収入によって生活はできるという状態である。 現在、プレイマリーバランスは赤字であるが、財政再建によってこれを2010年代初頭までに黒字にしようというわけだ。 黒字化する年度について、政府は当初2012年度を想定していたが、ここにきて税収が好調になったために、いつのまにか2011年度に繰り上げている。それを見ただけでも、ずいぶんいいかげんな計画であると分かるだろう。 では、本当にプライマリーバランスの黒字が達成できるのか。具体的な数字を検証していくことにしよう。 今年度当初予算のプライマリーバランスの赤字は11兆2000億円であった。ところが、冒頭に述べたように、税収が4兆円増える見込みなので、現時点での赤字見込みは7兆2000億円に圧縮されることになる。 税収が増えることで、本来ならば自動的に地方交付税が増加するということになるはずだが、政府は地方交付税を抑え込もうとしていることは、すでにご承知の通りである。もし、全額を抑え込むことになれば、いま示したように7兆2000億円にまで圧縮できるのである。 確かに、この赤字額は小さな数字ではないかもしれない。しかし、2004年度から2005年度にかけて、決算ベースで見たプライマリーバランスは、6兆4000億円改善したという実績がある。加えて、昨年度決算では1兆5000億円の予算の使い残しも発生している。こうした状況を考慮に入れれば、7兆2000億円などという額は、1年で解消できる金額に近いといってよい。 現に、12月20日に内示された政府予算の財務省原案では、来年度における税収は53兆4670億円となり、税収増は7兆6000億円を予測している。 そう、このまま景気回復が続き、不要な支出を抑えることができれば、実は破綻状態と言われた日本の財政は、早ければ来年度にも黒字化する可能性があるのだ。 日本の財政はけっして破綻していない ところが、日本の財政が来年度にも黒字化するという事実を、経済に携わる者を含めて誰一人として指摘しようとしない。誰もが、日本の財政は破綻状態と信じて疑わないのである。これは、実に奇妙なことではないか。 けっして、わたしは好き勝手な妄想を口走っているわけではない。予算書に書いてある数字を見て、論理的に述べているだけなのだ。 確かに、こういう反論もあるだろう。「プライマリーバランスが、ちょっとくらい黒字になっても、多額の借金はどうにもならないのではないか」。 しかし、それは目先の借金の額にとらわれているに過ぎない。それを説明するために、まずプライマリーバランスがプラスマイナスゼロになったと仮定して話を進めてみよう。 確かに、プライマリーバランスが釣り合えば、政府は新しく借金をする必要がない。一方で、借金の返済もできないので、過去の借金は残っている。その借金には金利が付くので、その分だけ借金の残高は増えていくわけだ。もし、金利が2%だとすれば、借金は年に2%ずつ増えていくことになる。 それでは、借金は雪だるま式に増えていくように見えるが、そうではない。同時に、経済が成長していけばいいのだ。金利が2%ついても、名目経済成長率が2%以上伸びていれば、GDP全体に占める借金の比率は下がっていく。つまり、借金の比重が軽くなっていくわけだ。 同じ100万円の借金であっても、年収300万円の人と年収1億円の人とでは、その比重は違っている。たとえ借金の返済が進まなくても、年収が増えていけば、借金の苦しさは低減するというわけだ。もちろん、年収を増やしていけば借金の返済も楽になる。 それと同様に、現在の経済成長を維持していけば、あとはプライマリーバランスを黒字化することで、借金返済も楽にできるのだ。 企業減税・個人増税にただ黙って従うサラリーマン 先ほども述べたように、プライマリーバランスは2007年度にも黒字化できる。これは、政府目標である2011年度よりも4年も早いわけだ。 それならば、何も焦って消費税率をアップすることなど必要ないではないか。「安定的な歳入が必要だ」などと言う人たちがいるが、それならば法人税減税をやめればいい。 ただでさえ、来年度は定率減税の廃止によって、さらに税収が1兆円伸びることになっている。もうこれ以上、一般国民に対する増税は必要ないではないか。少なくとも、財政再建を目的とした消費税率アップは、もはや必要がなくなっている。そんなことは、財政をやっている人ならば誰でも分かっているだろう。 では、それなのになぜ消費税率を上げようという話が消えないのか。それは、減価償却の拡充や法人税率の引き下げといった法人減税を行うための財源として必要だからではないか。 だが、いま救うべきなのは、空前の利益を上げている法人ではなくて、年収200万円程度で暮らさざるをえない庶民ではないのか。 わたしは、なにも安っぽい正義感だけで、庶民のためになることをしろと言っているのではない。いくら景気が上向いたといっても、国民の所得を伸ばして消費を拡大しなければそれは続かないのだ。たとえ企業の投資が伸びて生産力が上向いても、庶民がモノを買うことができなければ、やがて景気は失速してしまうだろう。それをわたしは恐れているのだ。 だが、わたしがいくら数字を挙げて、「消費税など引き上げなくてもいい」と論理的に説明しても、なかなかそれを理解してもらえないのが残念だ。それどころか、やれ財政が分かっていないだの、経済オンチだのとヒステリックな反応ばかりが返ってくる。揚げ句の果てには、非国民呼ばわりされる始末だ。マスコミにしても、借金の額ばかりを示して不安をあおっているばかりである。 だが、もう少し冷静になって数字をチェックしようではないか。そうすれば、現在の日本の財政状態の本当の姿が見えてくるだろう。そして、一般の国民も、政治家やマスコミに言われるがままに信用するのではなく、さまざまな意見を聞いて判断するようにしてほしいのだ。 わたしにとって、何よりもミステリーなのは、誰が見ても明らかな企業減税・個人増税という流れに対して、サラリーマンがただ黙って従っていることなのである。 [森永 卓郎氏]/SAFETY JAPAN http://www.nikkeibp.co.jp/sj/column/o/63/index.html 竹中前総務相「消費税引き上げ、必要なし」 消費税論議が高まる中、竹中前総務相は4日、「引き上げる必要がない」との見解を示した。 これは「日テレNEWS24」の番組収録で発言したもの。竹中前総務相は、「新年度の予算で重要なメッセージは、2010年代初頭に、プライマリーバランス(基礎的財政収支)を回復するために、消費税を上げる必要がなくなった。これは明らかです」と述べた。 この4年間で、税収などの歳入から一般歳出を引いたプライマリーバランスの赤字幅が、増税なしで半分以下になったことを指摘。経済成長と歳出削減を4〜5年続ければ赤字が解消するとの考えを示した上で、「プライマリーバランス正常化のための消費税アップは必要なくなった」との考えを強調した。[5日13時35分更新] http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/nnn/20070105/20070105-00000003-nnn-bus_all.html
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| 2007-01-05 18:23
| 政治経済
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