2008年 01月 11日
米国に差し出した外為特会100兆円 ~金融立国と軍事力の関係を解く~ 貯めたカネが使えないのなら、ないも同然だ。貸したカネが返ってこないのなら、差し出したに等しい。個人も国家も同じである。 昨年の11月中、日本経済新聞に野村証券元会長の田淵節也氏の「私の履歴書」が掲載された。その最終回は今後の世界経済の動きをいくつも示唆して興味深いのだが、「軍事力も持たずに金融立国の幻想を抱いている人」という気になる一節が出てくる。つまり田淵氏は、軍事力を持たない日本が金融立国など果たせるはずがない、と言っているわけだ。一体それは、どういうことなのだろう。 実は、軍事力の裏打ちのない金融立国は幻想に過ぎないというのは古典的テーゼである。例えば、金融立国を債権国に言い換えてみると、理解しやすいだろう。ある国が他国に融資あるいは投資を行い、対外資産を積み上げ、運用する。この両国関係が、何らかの理由で極度に緊張したとする。主権国同士が対立し、外交手段で解きえないとき、資産の回収圧力あるいは最終的な実践手段は軍事力しかないという考え方である。 では、この古典的テーゼは19世紀的遺物だろうか。 違う。 21世紀の今日も生きている。 日本は現在、100兆円もの外貨準備を外国為替資金特別会計で管理し、そのほとんどを米国債の購入に充てている。円高防止のために円売りドル買いを繰り返し、溜まったドルを米国債で運用しているわけだ。これはつまり、米国に融資しているのと同義である。この米国債を、かって橋本龍太郎首相が「売りたい誘惑に駆られたことがある」と発言しただけで、マーケットは急落した。日本は米国の生殺与奪の権を握ったのだろうか。 むろん、そんなわけはない。 米国の核の傘に守られ、国内に数多くの米軍基地を抱える日本に、米国債を自由自在に売買する権限は、安全保障上ありえない。仮に米国債が暴落しようと、経済合理性を優先して叩きうるなどということは金輪際できない。つまり、外為特会はないも同然、差し出したに等しいのである。最近、政治家はこの外為特会を“霞が関埋蔵金”として取り上げたり、日の丸政府系ファンドの運用資金として着目したりしているが、能天気に過ぎるだろう。 池尾和人・慶応義塾大学教授は、「外為特会は地震保険」だと皮肉る。 確かに、日本が地震で壊滅し、復興に巨額の資金を欲するという緊急事態にでもならない限り、米国政府は日本に米国債の売却を認めないだろう。皮肉ついでに言えば、日本が壊滅したら円は暴落しているだろうから、ドル建ての米国債は実に頼りになる復興資金となろう。 視点を変えよう。今や、世界で最大の外貨準備を抱えるのは中国である。その有り余る外貨を運用する政府系ファンドが、サブプライムローン問題で苦しむ米巨大銀行の資本増強要請に応じた。これは、軍事的くびきとは無縁の金融外交である。金融資本立国の中核である米銀が救済を求めた裏には、当然米国政府の了承がある。一方、ある中国巨大企業の首脳は日本の財界人に、「出資要請は他にもあるが、すべて中南海(中国政府)に相談する。一度は蹴れ、との指示だ」と、駆け引きの一端を明かした。 外貨運用戦略は、超大国同士の”貸し借り表“を想定した外交ゲームに転化した。彼我の差は、これほどに大きい。 http://diamond.jp/series/tsujihiro/10008/ 世界一の債権国、日本に味方はいない ドルの地政学リスク(大機小機) 米国は、一九九五年から貿易収支の赤字を手放しで拡大すると同時に、強いドル政策をとった。いわば「いいとこどり」をしてきた。こうした米国の行動を可能にしたのは、黒字国であるアジア諸国や産油国が米国債を取得し、外貨準備として運用しているからである。 この分野の専門家の説によると、外貨準備として黒字国に所有される米国債の券面はニューヨーク連銀が預かっており、事実上米政府の管理下にある。そのため、米国はほとんどもらったも同然のお金と考えているそうだ。その見方に立ってこそ、米国は赤字の拡大を心配せずに、海外から積極的に買い物ができるというわけだ。 一方、黒字国は輸出して品物を提供したうえに、自動的に米国の赤字ファイナンスを担うことになる。黒字国にとって一生懸命働いて稼いだお金が米国に戻るのでは、何ら得るものがないようにみえる。 しかし、黒字国が米国の圧倒的な軍事力の庇護(ひご)を求め、その見返りとして米国債を保有している、という目で見ると合点がいく。中国を除くアジア諸国や中近東の産油国は、それぞれ小国であることなどから自国の防衛を米国に頼らざるをえない。 特に日本を含めアジアの黒字国は、イラク戦争やアフガン出兵など米国によるシーレーンの防衛を不可欠としている。エネルギーを確保し、またアジア諸国間での製造業の分業体制を維持するうえで必要だからである。 ところが一昨年あたりから、さすがに米国の赤字拡大に歯止めがかかってきたようだ。その理由として考えられるのは、中国とロシアの二国の黒字が急増していることである。二国の黒字合計額は、米国の赤字の半分近くに達している。 二国とも軍事大国であり、基本的に自国の安全を米国の防衛に依存していない。すなわち対米外交交渉の一環として、政治判断でドル資金を引き揚げうる立場にある。言ってみれば、もっとも望ましくない相手に、米国は赤字ファイナンスを大きく依存してしまったようだ。八〇年代では東西統一前のドイツそして日本という友好国、九〇年代は日本が引き続き赤字ファイナンスの中心にいたこととは大きな違いである。 新しい年を迎えてドルの行方から目を離せない状況がしばらく続きそうだ。(剣が峰) [1月17日/日本経済新聞 朝刊] http://job.nikkei.co.jp/2008/contents/news/inews/nt21auto016/NIRKDB20080117NKM0101.html 【経済】対米黒字という幻想山田厚史(編集委員) 米国の貿易赤字は05年7000億ドルを超え史上最大を更新する、という。 日本の貿易黒字は11月までに9兆3000億円、年間では10兆円を超えそうだ。 黒字を稼いでいる日本がデフレに沈み、競争力で劣るはずの米国が好況に沸く。なぜなのか? 東京証券取引所の平均株価は昨年一年間で40%値上がりした。米国の機関投資家が積極的に買ったことが上げ相場の始まりだった。銀行の不良債権処理で売りに出た企業を積極的に買っているのも外資だ。 昨年1〜6月、日本の対米貿易黒字は3兆6200億円あった。同じ時期に3兆4200億円が日本から米国に還流している。 大赤字の米国に日本から銀行融資や証券投資などで資金が流れ、外資の懐に入って、今度は逆流して日本が買われている。 不動産バブルと言われる米国の住宅ブームも、ジャパンマネーが回り回って支えている。 「植民地時代のインドは英国との貿易で常に黒字だった」。アナリストの三国陽夫氏はこう指摘する。 インドは香辛料などを輸出して宗主国の英国から大幅な黒字を稼いだが、支払いは英国通貨のポンドで、ロンドンの銀行に預けられた。インド人の汗と涙で稼ぎ出した貿易黒字は帳簿の上だけだった。英国企業に融資され、宗主国の投資や消費を活発にした。英国人はインドの産物と資金で一段と豊かな暮らしを実現した、という。 三国さんは近著「黒字亡国」で、いまの日米関係が植民地時代のインドと英国の関係に酷似していることを丹念に描き、「対米黒字が日本にデフレを引き起こしている」と説いている。 植民地インドと同様に、日本は稼いだカネを米国に置いてきている。 米経済戦略研究所のクライド・プレストウィッツ所長はかつて私に言った。 「レクサスはいいクルマだ。トヨタは米国人に売っていると思っているが、我々は日本のクルマを日本人のカネで買っている。米国にとってこんなうれしいことはないが、こんなことがいつまで可能なのか」 こんな日米関係を、米政府内では「日本は米国のクライアントカントリー(保護領)」と呼ぶ人がいる、という。国際収支が黒字になっても「勝ち」ではない。資金を自国で使えないなら「貢いでいる」のと同じである。 経済の血液が米国に流れれば、その分日本は消費や生産に回るマネーを失い、経済は停滞する。代わりに得ているのが米国の政府が発行する国債だ。ドル建ての米国債は円高になれば減価する。しかも勝手に売れない。日本が資金を引き揚げたら、それこそドル暴落が起こりかねない。 「わたし貢ぐ人、あなた使う人」の日米関係。ブッシュ政権は、減税をしながらイラクに大量の兵士を送るという芸当が可能になる。 小泉・ブッシュの友好は「対米黒字」が支える同盟関係だ。 asahi.com :読み・解く - be-business http://www.be.asahi.com/20060128/W12/20060124TBEH0002A.html 日米関係についての考察―親日派がいなくなる日 http://tech.heteml.jp/2006/12/post_883.html 世界的ベストセラーをいまだに続けているコロンビア大学スティグリッツ教授がTVに出ていたが、その時の発言は…… ---------------------------------------------------------------------- ①米国財政は極めて短期間に巨額の赤字を出すようになり、景気対策の名のもとに必要以上の減税が行われ、戦争と言う財政の大盤振る舞いが続いているが、こんなことが長続き出来る訳がない。米国の絶頂期の1960年代ですら、ベトナム戦争でバターも大砲もといった大盤振る舞いが「ドル暴落」のきっかけとなった。双子の赤字問題がいつまで表面化せずに続けられるのか分からないが、いずれ第2のニクソン・ショックが日本を始め世界に衝撃を与える。福井日銀総裁がドルを買い支えているうちに、出来る人は外債をドルからユーロ債に切り替えておいたほうが良いだろう。 ②米国もやがてはアルゼンチンのようになり、ラテンアメリカ化し、米国債の利払いも滞るようになり、債務不履行も避けられないだろう。福井日銀総裁は今年だけですでに(為替介入を通じて)13兆円もの金を米国に貸し付けている。借りた米国は借りた金で日本の株を買ったり日本の自動車やテレビを買ったりしている。それで日本はそれだけ豊かになったのか、むしろ貧しくなっている。円がいくら高くなったところで米国から買うものは食糧や飛行機などの限られたものでしかない。 ③日本の巨額な赤字財政を続けられるのはなぜか。日本の巨額な預貯金と、巨額なドル建て債券が、国家の財政赤字の穴埋めに使われているからアルゼンチンのように円は暴落することがなく、かえって高くなっている。日本が経常収支で黒字の間は財政も破綻することはない。しかし米国が経済破綻してドルが大暴落した場合、日本経済にも破綻がやってくる。中国も対米黒字国だが日本とは違ってユーロへのシフトは確実に進んでいる。対米黒字をユーロでヘッジしておけばドルの暴落も回避できるが、日本の政府・日銀は米国の脅しによってシフトができない。ならばせめて民間だけでもドルからユーロへシフトしておくべきだ。米国はそれを警戒して日本の金融機関を米国の資本で買収しようとしている。小泉首相や竹中金融大臣が日本の銀行や生保を米国に売り渡そうとするのも、日本の民間資金のユーロシフトを恐れているからだ。最終的には最大の金融機関である郵貯も民営化して米国へ売られる。しかしそんなことをしてもその前に米国は破綻する。 http://www.gcams.co.jp/stock/mkt/0311_1.htm ジョセフ・E・スティグリッツ - Wikipedia ジョセフ・E・スティグリッツ(Joseph E. Stiglitz, 1943年2月9日 - )はアメリカ人の経済学者で、2001年にノーベル経済学賞を受賞した。現在における最も活動的且つ影響力のある経済学者の一人である。 著書:『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』(徳間書店, 2002年)
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| 2008-01-11 16:43
| 政治経済
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