2006年 08月 10日
小泉改革路線が築いた日本の姿を代表するのは不良債権処理であり、それはブッシュ・小泉の連携プレーの産物である。 都心の青空駐車場の再開発急ピッチ 連休に東京の都心をぶらりと散策すると、風景が一変していた。各所でいつの間にか雑居ビルが壊され、飲食店やゲーム・センターなどが立ち退き、数千平方メートル単位の用地に統合されて再開発が進んでいる。権利関係が輻輳して虫食い状態になっていたり、一部が青空駐車場になっていた地区が区画としてまとまり瀟洒なオフィス・ショッピングセンターに生まれ変わりつつある。 いわば休眠状態にあるか、あるいは場所にふさわしい価値を生めなかった土地が効率のよい資産になる。新しい需要と雇用の場を作り出し、投資家はこのセンターを保有する外資系投資ファンドに投資し、収益を確保する。東京ではこれまで汐留、丸ノ内などもともとまとまっていた用地に集中していた都心ビル建設ラッシュが銀行不良債権関連用地に及んできた。この波は関西など他の大都市圏にまで広がる勢いのようだ。 ブッシュ大統領の投じた「決め球」とは 2002年2月19日、来日したブッシュ米大統領は日本の国会で演説し、小泉首相を「アメリカの新しいベースボールスター、イチロー」にたとえ、「投げられた球をすべて打ち返すことができる」と持ち上げた。このときブッシュ大統領が小泉首相に投げた決め球とは自衛隊のイラク派遣のことではなかった。アメリカは過去に「不良債権を市場に出して、新たな投資を可能にした」とし、小泉首相の改革で日本経済に関しても同じ事が起こるだろう、と励ました。 ブッシュ大統領は来日前に小泉首相に親書を送り、不良債権の市場での処理促進を強く求めていた。銀行の不良債権が帳簿上での処理にとどまり、不動産や事業など企業の不稼働資産が処理されていない状況に苛立ちを隠さず、「早期に市場に売却されないことに、強く懸念している」とかなり具体的、直接に問題解決を促していた。 以来、小泉政権は金融機関の不良債権処理を加速させてきた。ことし1月の国会での施政方針演説で小泉首相は「揺らぐことなく改革の方針を貫いてきた結果、日本経済は、不良債権の処理目標を達成し、政府の財政出動に頼ることなく、民間主導の景気回復の道を歩んでいます」「主要銀行の不良債権残高はこの3年半で20兆円減少し、金融システムの安定化が実現した」と胸を張った。 冒頭で挙げたような風景はまさしく「小泉改革」の戦果である。だがどうやってこの不良債権再生のビジネス・モデルが実現したのだろうか。第一に、大手の日本の金融機関は不良債権の最終処理(売却などによる処分)に手間取り、不動産融資を本格的に再開するゆとりがない。在来の大手不動産業者も手が出せない。該当地区の一部は裏社会がらみの利権がからんでいる。暴力団を使った荒技による「地上げ」は企業のイメージをそこなう。つまり、バブル期のような不動産開発のビジネス・モデルは通用しない。 台頭しているのは、第三の勢力である。資金を持ち、地上げをやり遂げる組織力もある。ノンバンク系金融サービス、IT(情報技術)ネットのサービスなど新興企業への出資や経営により、キャッシュが手元にふんだんに入ってくるので、銀行融資に頼らなくてもよい。最終的には外資系などの投資ファンドに資産を売却して、投資を回収する。第三の勢力と外資をつなぐ全体のとりまとめを日本の有力な企業グループが引き受けると、このビジネス・モデルは完成し、表向きには第三の勢力の介在が目立たない。 「米軍の上陸戦略」まで動員したビジネススタイル 前回のコラムでも指摘したが、ブッシュ政権は2001年の発足当時、日本の不良債権問題が深刻なのは不良債権になった不動産など資産の多くが組織暴力団系にからんで流動化できなくなっていることを調べ上げていた。米国系の投資ファンドはバブル崩壊により急落した日本の不動産への投資を強化していたが、裏社会の関与が障害になっていることに苛立っていた。 不良債権の市場処理については、民間金融機関と情報機関、軍関係者までが緊密に連絡し合っていた。大手の米系投資銀行は日本の資産買いに際し、米軍の上陸戦略、占領手法を活用している。参謀格に米軍出身者を据え、情報収集、危機管理を迅速にこなす。これらの元軍人の多くは日本駐留の経験もあって日本の事情に通じているうえに、法律家の資格も持っている。不良資産を買い取り、優良資産に仕立て上げる過程ではさまざまなトラブルが発生する。米側関係者の居場所や電話番号などの連絡先から脅迫や誘拐対策まで完ぺきな危機管理マニュアルを備えている。 「まるで対日再占領のようですね」と、米政府筋に水を向けても動じない。「われわれは直接投資により日本企業の改革や経営陣の世代交代を促し、日本経済を強くしたいのだ」と言っていたのを思い出す。 改革を後押しする「政治的余地」の根源 だが、ここへきて、第三の勢力の台頭で不良債権のもつれがときほぐされ、外資系としてみずから裏社会と直に関与したり取引する必要もなく、投資できるビジネス・スキームが整った。日本経済は活性化し、虫食いになっていた都心の一等地も見事に再開発される。銀行は不良債権をめでたく最終処理できる。 ブッシュ政権は共和党系のサーベラスやカーライルを含む米系投資ファンドによる対日投資機会の拡大を評価し、小泉首相は不良債権処理と日本再生の成果を誇る。日本の金融関係者などの間では、第三の勢力の一部はもとはと言えばいわゆる舎弟企業または、「表」のビジネス社会に参入・浸透しているとも言われる組織暴力団系企業との見方も根強い。 それでも、結果よければすべてよし、ということか。経済学の教科書風に解釈すれば市場メカニズムによる資源の適正配分、つまり資本主義の合理性を実現するわけだが、きれい事だけでは現実の経済は理論通りの方向には動かない。そこに日本の首相が米国の大統領に背中を押される形でリードする政治的余地がある。 NET EYE プロの視点 http://www.nikkei.co.jp/neteye5/tamura/20060507n1957000_07.html ブッシュ・小泉と北朝鮮問題の深層(4/10) 小沢一郎代表による民主党の巻き返し、自民党の「ポスト小泉」争いは表面的な話題としては結構だが、いったい何が今後の日本という国の姿形になるのかはぼやけている。それをはっきりさせるために今は何か、つまり、佐藤栄作、吉田茂に次ぐ戦後三番目の長期になった小泉純一郎政権とは何か、を考えてみた。ワンフレーズで最も簡潔に小泉首相の本質を表現しているのは、「日米関係が良ければ良いほど中国、韓国などと良好な関係が築ける」という首相の持論である。首相がそこまで信じる根拠は2001年4月の小泉政権発足まで遡らなければならない。 ホワイトハウス高官が小泉支持を表明 筆者は同年6月に出張したワシントンでホワイトハウス高官から露骨とも異例とも言える小泉支持を聞かされた。「小泉改革路線をわれわれは全面的に支持する。改革は日本を強くするために実現しなければならない」「外圧はかけないが、小泉改革の抵抗勢力にはわれわれが直接ホワイトハウスまで招いて説得する」——。 このとき、ホワイトハウスには日本の不良債権問題や北朝鮮問題に関する精緻な報告書が寄せられていた。その要点は(1)不良債権問題については日本の裏社会が深く関与しているうえに、一部の政治家、官僚、企業までが闇勢力に取り込まれている(2)日本の有力政治家の中で資金面を含め北朝鮮とのいかなるつながりもないと断言できるのは小泉純一郎だけだ——。 ブッシュ政権には日本に張り巡らせている情報筋から、在日北朝鮮系業界を資金源とする裏金がどうやって一部の政治家に流されているかという報告も入っていた。裏金は裏社会出身で口が堅く絶大な信用のおける第三者の日本人がプロの協力者、つまり運び屋になっている。運び屋は「グルグル預金」と称して巨額の資金の足取りがつかないようにいくつかの銀行口座を短期間で転々と移す。運び屋はその現金を必要に応じて政治家に渡す。金正男(北朝鮮の金正日書記の長男)は2001年5月に成田空港の入国管理局に拘束されたが、それまでは成田空港で正規の入国手続きを経ずに何度も日本に出入りし、東京都内の高級マンションや赤坂に出没していた。航空会社乗務員専用の出入り口から入出国していた疑いがあるが、特殊な政治的はからいがなければ不可能だったはずだ。 小泉改革は先の郵貯の改革の残像が強くて、今や不良債権処理問題は過去になった感があるが、バブル崩壊後の「空白の10年」とは、不良債権処理を店晒しにしただけで、小泉内閣が初めて本格的に着手し、現在の景気回復につながった。一部はハゲタカとも呼ばれる米国系の投資ファンドが活躍することで、米側は小泉改革で実利を稼いだとも言える。 北朝鮮系とのダーティーなつながりの疑惑をもたれていない小泉首相が2002年9月に訪朝し、そのクリーンな手で金正日書記と握手できた背景には当然のようにブッシュ政権からの絶大な信頼があった。アフガニスタン、イラクの「反テロ戦争」で苦闘しているブッシュ政権にとって、北朝鮮の核疑惑問題に発する東アジアの不安な情勢の改善は不可欠だったが、小泉首相以外であれば日本の指導者をそこまで信用しなかっただろう。 小泉首相の「靖国参拝」には中国と韓国が反発し、中国政府はワシントンでのロビイングで米側にも同調を工作しているが、ブッシュ政権はまともに応じない。2005年11月の日米首脳会談でブッシュ大統領は日中関係の改善を小泉首相にやんわりと促したが、小泉首相は冒頭で挙げた「日米関係が良ければ問題ない」と答えた。この小泉発言は思いつきではないどころか、政権発足以来の米側から小泉内閣に寄せられる信頼の積み重ねから生まれた。 小泉政権が代われば小沢民主党にはチャンスか 問題はやはりポスト小泉である。後継最有力と目される安倍晋三官房長官を初め、全員が当然のように「親米」を競う。安倍官房長官はさらに拉致問題解決に深く関与してきたこともあって北朝鮮への強硬姿勢を崩さないし、対中外交も小泉路線を継承する構えだ。しかし小泉路線とは、あくまでも小泉・ブッシュの特別な関係を基礎にしている。安倍氏がいくら「小泉の後継者」らしく振る舞っても、小泉純一郎にはなりえない。 ブッシュ政権と深く結びついた小泉政権が代われば、小沢民主党には確かにチャンスかもしれない。ポスト小泉がだれになろうと、最も重要な対米関係では独自路線を鮮明に打ち出して「ポスト小泉」政権と対等に競える。 そこで最大の焦点になるのは対中関係でも北朝鮮情勢でもない。中長期的にみた日米関係そのものである。戦後の日米関係史でもきわめて異例なほど親密なブッシュ・小泉関係のゆえにか、「日米同盟」は表面上無風でも内面では空洞化が進んでいる。中国古代の思想家、荘子の格言「合則離、成則毀」(合えば離れ、成れば毀れる)にある通り、あらゆる物事には順調に見えるときにはすでに脆さをはらんでいる。 決着を先延ばしにした在日米軍再編問題は米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設、経費負担のからむ沖縄海兵隊のグアム移転問題が大詰めの局面にあるが、普天間飛行場の移設は基本合意から10年経った。在日米軍問題に深く関与してきた制服組の米軍幹部は言う。「ラムズフェルド国防長官はイラクでそれどころではないからよいようなものの、報告したらこれまで10年間いったい何をしていたのかと詰問するだろう」。キャンプ・シュワブ(沖縄・名護市)沿岸部への移転は米軍にとってみれば、日米が同盟関係であるなら日本の国内問題としてとっくに解決していなければならなかった、という強い不信感が国防総省内に渦巻いている。 海兵隊のグアム移転経費の75%負担要求はもっと深刻である。米側要求に対しての日本側の失敗は、それを「言い値」と「値切り」の交渉にしてしまったことである。75%に対しては、50%以下でなければ駄目と公然と言い返したり、融資でなければ応じられない、と切り返す。米国人ならすぐわかることだが、安全保障のような国の威厳に関わる事柄では、米国人は他人から指図されることを極端に嫌う。上記の米軍幹部は「通商交渉のつもりで日本が臨むなら受けて立ちましょう。それでは日本国の安全をロンドンのロイズ保険に出すとしたら、日本はどれだけ保険料を支払わなければならないのか、計算できないほど巨額になるはずです」と本音を漏らす。 与野党を問わず、米国との同盟関係とは無条件の信頼関係であると認識していないと、「ポスト小泉」、さらに2年後には「ポスト・ブッシュ」を迎える対米関係を改善できないだろう。 NET EYE プロの視点 http://www.nikkei.co.jp/neteye5/tamura/20060409n1949000_09.html
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| 2006-08-10 02:29
| 政治経済
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