2005年 12月 27日
政府の「犯罪被害者等施策推進会議」(会長=安倍晋三官房長官)は二十六日、犯罪被害者の名前を「実名」「匿名」のどちらで発表するかの判断を警察に委ねることになった項目の削除や修正には応じず、原案通りの基本計画案を決めた。二十七日の閣議で正式決定する。計画期間は平成二十二年末までの五年間。 犯罪被害者の実名、匿名発表をめぐっては日本新聞協会などから「原則、実名にすべきだ」との意見が出されていた。 会議では、推進会議の下に設置された検討会の座長代理、山上皓・東京医科歯科大教授が、報道機関の機能を阻害しないことを前提に、実名、匿名発表の項目を盛り込んだ経緯を報告。その際、(1)報道の自由に規制を加えるものではない(2)警察の恣意(しい)的な判断や安易な匿名発表の拡大を認めるものではない(3)新たな権限を警察に与えるものではない(4)匿名発表とする場合には、マスコミに対して理由を説明し、議論に応じる−など六点の補足説明を行い、了承された。 計画案全体では、公営住宅への優先入居や犯罪被害給付制度の拡充など二百五十八項目の支援策が網羅されている。このうち、「国による損害賠償債務の立て替え払い」や「民間の被害者支援団体への支援」など財源を伴う三つの施策については今後、新たな検討会を設けて内容を詰め、二年以内に結論を出す。 被害者や遺族の強い要望を反映した施策として盛り込まれた刑事手続きの中で被害者が損害賠償請求できる制度などについては今後、法改正も検討される見通し。 ≪警察判断≫ 犯罪被害者等基本計画案には二百五十八項目もの施策が盛り込まれた。最も議論を呼んだのが、「被害者の安全確保・国民の配慮」の項目にある、「警察による被害者の実名、匿名発表については、案件ごとに適切な発表内容となるよう配慮していく」という一文だ。事実上「実名、匿名発表の判断を警察に委ねる」ことを内容としている。 一文が盛り込まれた背景には、過去に被害者宅に多数の報道関係者らが殺到する「集団的過熱取材」(メディアスクラム)が起きたことなどに対する、強いメディア不信がある。 「全国犯罪被害者の会」代表幹事で、自宅に侵入した暴漢によって妻を殺害された岡村勲弁護士は「事件で傷ついた被害者が実名発表で、さらに傷つくこともある。葬儀をあげることもままならない」と主張する。他にも自らの経験から「実名か匿名の判断は被害者自身の判断に委ねるべきだ」とか、「加害者に比べ被害者ばかりが報道被害に遭う」と考えている被害者は多い。 ≪虚偽発表例も≫ 一方、メディアは「報道の自由」や「国民の知る権利」を擁護する立場から、当該事項の削除を求めている。新聞協会や民放連は「事件や事故を正確に客観的に取材、検証し、報道するためには実名は欠かせない」と訴えた。 過去の反省から、メディアスクラムを防ぐような取り組みが実現していることなどを根拠に「実名、匿名判断は報道機関が判断する」とも主張した。 実際、今秋以降、広島、栃木、京都で連続して起きた女児殺害事件などでは、「節度をもった取材」が報道機関の責任者の間でわざわざ確認されている。 警察取材の現場で犯罪被害者支援の議論とは別に、「捜査上の秘密」「プライバシー」をたてにした匿名発表がなし崩し的に進んでいることへの、メディアの危機感やいら立ち、不信もあった。 実際に、四月のJR福知山線脱線事故では、遺族の了解後に実名発表したために現場は混乱。山梨県警では恐喝未遂事件被害者の年齢を虚偽発表したケースもあった。新聞協会は意見書で「国民に知らせるか知らせないか、警察に最終判断を任せていいのか」と訴えている。 ≪報道の自由≫ 基本計画案の論議の中でも、「報道の自由への侵害」を懸念する声がなかったわけではない。 十月の会議では「『取材の自由』は民主主義の根幹だ」という意見や「行政機関に判断を任せていいのか」といった意見も出された。二十六日の会議でも「取材・報道の自由に規制を加えるものではない」という説明が特にされている。 しかし、最終的に該当の一文が削除されることはなかった。被害者側の「メディア不信」が、メディア側の「報道自由の侵害懸念」を上回った形となった。 メディア側は懸念をぬぐい切れておらず今後は、事件事故の際の警察発表の場面や、取材の現場で議論が続きそうだ。 ◇ 警察の実名、匿名発表をめぐる記述は以下の一文。「警察による被害者の実名発表、匿名発表については、犯罪被害者等の匿名発表を望む意見と、マスコミによる報道の自由、国民の知る権利を理由とする実名発表に対する要望を踏まえ、プライバシーの保護、発表することの公益性等の事情を総合的に勘案しつつ、個別具体的な案件ごとに適切な発表内容となるよう配慮していく」 ◇ 【基本計画案の骨子】 一、加害者への損害賠償請求に刑事手続きの成果を活用する新制度や、犯罪被害給付制度の拡充の検討 一、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の高度な専門家の養成や、刑事裁判終了後の加害者情報の提供拡充の検討 一、「公訴参加」を含め、被害者が刑事裁判手続きに直接関与できる制度の検討 一、犯罪被害者支援団体への財政的支援の検討 一、被害者の実名発表、匿名発表について警察が適切な内容となるように配慮 犯罪被害者基本計画きょう閣議決定 匿名発表消えぬ不信
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| 2005-12-27 16:08
| 政治経済
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