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2009年 09月 14日

「温室ガス25%削減」鳩山発言への懸念/中国ばかりが"丸儲け" 巨大化する排出権ビジネス

1世帯36万円以上の最低負担
 「温室ガス25%削減」鳩山発言への懸念
        町田徹(ジャーナリスト)
        【第91回】 2009年09月11日

 日本の2020年までの温室効果ガスの削減目標(中期目標)について、鳩山由紀夫・次期首相が7日の講演で「1990年比で25%の削減」と、現政権のそれ(90年換算で8%の削減)を塗り替えると発言し、内外に波紋が広がっている。海外から鳩山礼賛の声が多く寄せられる一方、国内の経済、労働界から強い反発が出ているのだ。

 しかし、冷静にみると、この発言は異常ではないだろうか。というのは、肝心の国内のコンセンサス作りを何もしておらず、対外的なパフォーマンスを優先した格好となっているからだ。

 ちなみに、鳩山案は、今年1月の政権獲得以来、精力的な国内調整を進めているオバマ米大統領の削減案(1990年基準に換算してプラスマイナス0%)も大きく上回る。

 現政権の試算(真水ベース)に照らすと、鳩山案達成には、1世帯当たり22万から77万円の可処分所得の減少をはじめ、最低でも36万円程度の経済負担が必要だ。低所得者の負担を軽減するには、環境税新設のような所得の再分配が不可避とされるが、経済危機の最中にこうした重い負担増に国民が耐えられるとは到底思えない。

 民主党政権の外交デビューにあたって、真に意味のある温暖化予防策を提言し、世界に対して新政権の力強い指導力を印象付けようとするのなら、もっと外交的に意味のある提案は他にいくらもあったはず。例えば、筆者の持論である、温暖化ガスの人口1人当たり排出量の上限を決めて、国力に応じ、その達成年の目標を定める手法などは、その一案だ。鳩山発言の拙速さは、真に残念である。

国連関係者は鳩山氏を
諸手を挙げて歓迎するが

 次期首相が発言したのは、朝日新聞社が都内のホテルで主催した「朝日地球環境フォーラム2009」だ。このフォーラムは、国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)のイボ・デブア事務局長、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のラジェンドラ・パチャウリ議長らも参加する国際的なもので、鳩山次期首相はこの場でオープニングスピーチを行った。

 民主党や朝日新聞によると、次期首相は「政権交代が実現することとなった今、私は、世界の、そして未来の気候変動に対処するため、友愛精神に基づき国際的なリーダーシップを発揮していきたいと考えています」と前置きした。そのうえで、中期目標について「2020年までに1990年比25%削減を目指します」と明言した。

 そして、この中期目標の達成を、「(マニフェストに掲げた政権公約であり、)政治の意思として、あらゆる政策を総動員して実現をめざしていく決意です」と強い調子でコミットしたというのだ。

 次期首相は、「もちろん、我が国のみが削減目標を掲げても、気候変動を止めることはできません。世界のすべての主要国による、公平かつ実効性のある国際枠組みの構築もめざします。すべての主要国の参加による意欲的な目標の合意が、我が国の国際社会への約束の『前提』となります」と付け加えて、米国や中国といった京都議定書の削減義務を負わない主要排出国をけん制することも忘れなかった。

 さらに、今回の発言はいわば予告編に過ぎず、より具体的なことについては「今月22日に開かれる国連気候変動首脳級会合にぜひ出席させていただき、本日申し上げたことを、より具体的に国際社会に問うていきたいと思います」と、首相としての初の外遊となる米国訪問の際に、さらに踏み込んだ途上国援助などを公表し、この中期目標を国際公約とする考えまで表明した。

 こうした次期首相の発言を、前述の国連関係者らは手放しで喜び、賛辞を惜しまなかった。例えば、イボ・デブア事務局長は、「鳩山代表が表明した目標は素晴らしい。低炭素社会へのリーダーシップにもなるだろう」と褒め称えた。パチャウリ議長も「鳩山氏の発言は、世界各地で聴いた政治家の発言の中で最も勇気づけられるものだった」と持ち上げた。

 だが、フォーラムに参加した中国関係者は素っ気なかった。中国は、米国と並ぶ世界の2大温暖化ガス排出国の一つでありながら、京都議定書の削減義務を負っていない。2013年にスタートするポスト京都の新しい枠組みへの参加を危ぶむ声も多い。そんな注目の視線を浴びながら、国家発展改革委員会・エネルギー研究所の周大地顧問が今回のフォーラムで講演したのだが、「中国は温室効果ガスの増加ゼロを実現し総量を減らしていく」と、述べただけ。新たな削減目標に踏み込んだ発言をしなかったのだ。

 鳩山発言には、「日本が踏み込んでも、その目標が独り歩きするだけで、諸外国から必要な譲歩を引き出せない懸念がある」(経済団体幹部)と懸念する声がある。周顧問の消極姿勢は、はからずも、そうした指摘が現実の問題であると裏付ける形となったのである。

 こうした問題を、鳩山発言が持つ大きなリスクと主張してはばからないのが経済、労働界だ。具体的には、日本鉄鋼連盟の宗岡正二会長(新日本製鉄社長)は、「鳩山代表がおっしゃっているとおり、『世界のすべての主要国による、公平かつ実効性のある国際枠組みの構築を目指す』ことに全力を尽くしていただきたい」とのコメントを書面で発表し、今後の外交交渉でいいところ取りをされないようにやんわりと釘を刺した。

 新聞報道によると、同じく新日鉄の三村明夫会長は出張中の中国で、記者団からコメントを求められて、憮然とした表情で「国際公約とする時には、国民生活への影響をぜひ議論してもらいたい」と鳩山代表の手続きを問題にしたそうだ。さもないと「対等な競争条件が崩れ、日本から逃げ出さなければならない産業も出てくるかもしれない」と強い調子で警告を発したという。

 さらに、民主党の支持母体である連合傘下の労働組合からも、鳩山発言批判が相次いだ。電力総連の南雲弘行会長は9日の北九州市での定期大会で、来賓として出席した民主党の直嶋正行政調会長を前にして、「(鳩山代表の中期目標の)実現可能性には疑問を抱かざるをえない」「数字上の見せやすさだけが先行している」と痛烈な批判を展開した。

 また、自動車総連の西原浩一郎会長は3日の記者会見の段階で、すでに、鳩山発言の土台となった民主党のマニフェストの問題点を取り上げて、「雇用への影響や国民負担の問題を含めて、十分な情報提供がなされているとは思えない」と批判していた。

いたずらに高い目標設定は
海外の環境原理主義者を儲けさせるだけ

 ここで話を進める前に、はっきりさせておきたいことがある。それは、筆者が、鳩山発言を称賛する海外の反応だけでなく、強い反発をする経済・労働界の反応のいずれにも与する気はないということだ。

 その理由のひとつは、さすがに国連やIPCCまで同類だとは言わないものの、海外から日本に高い目標設定を求めてきた環境専門家と言われる人々の中に、投資銀行や投資ファンドなどの金融出身者が圧倒的に多いことがあげられる。そして、その専門家たちの動機には、首を傾げざるを得ない面が多いとされているのだ

 実際、麻生太郎現政権が今年6月に中期目標を公表した際、その目標が海外からの排出権の購入を前提としない、国内における技術開発などの施策だけで目標を達成しようとする「真水ベース」だったことに対し、海外の環境専門家の多くが失望感を隠そうとしなかった事実がある。

 失望した理由は、日本が大量に排出権を購入しないと、海外の投資銀行やファンドが将来のメシのタネと見込んで巨額の先行投資をしている排出権が無価値になり、国際的な排出権取引が成立しなくなることがある
。そこには、海外の環境原理主義者たちの台所事情が透けているのである。

 ちなみに、こうした環境原理主義者たちの多くは、中国の大口のCO2排出事業者と連携して、すでに大量の排出権を買い占めているとされる。つまり、将来、日本に、排出権を高値で売却することを目論んでいるとされるのだ

 こうした金儲け狙いの環境原理主義者たちを儲けさせる義務を、日本が背負う必要などまったくない。本音と建て前をきちんと見分ける眼力は必要だ。日本がいたずらに高い目標を設定することは、そうした金儲け原理主義者たちを喜ばせるだけである。むしろ、排出権取引の欺瞞に乗せられる愚を避けて、本当は自力でCO2を削減したくても、資金が乏しく、そういう努力をできない、真面目な国々を援助する仕組みを真摯に検討することこそ、本来の日本の役目とするべきである。

 逆に言えば、GDP世界第2位の地位を、今後1、2年のうちに、日本から奪取しようというほどの国力を付けた中国には、日本の高度な省エネ技術を正当な対価を払って導入して貰うべきなのだ。日本国民に重い負担を強いながら、排出権取引で中国に多額の資金を供与する必要性など見出せない

 話を戻すと、そもそも、日本が2度の石油危機という経済的な試練を乗り越えて、世界で最も省エネの進んだ国家となったことは、周知の事実である。それに対して、欧州連合(EU)は1990年当時、省エネで日本に後れをとっていた。そのうえ、それまでCO2の排出削減努力をほとんどして来なかった東ドイツの崩壊などによって、EUの加盟国数が増えたため、EUはごく軽微な努力で中期目標(1990年比20%削減、他の先進国が足並みを揃えれば30%までの削減に応じるとの但し書きもつけている)を達成できることも知られている。そうした事情を無視して、90年比という特殊な基準年を受容して、日本が国際的にみて必要以上にハードルの高い中期目標を掲げることはナンセンスなのだ

 あまり日本では知られていないが、37ヵ国で構成する「途上国グループ」が今年6月半ば、国連の気候変動枠組み条約事務局に提出した、彼らの「京都議定書改定案」は、そうした国際的な常識をなかなかよく反映している。というのは、37ヵ国が日米欧の3極に応諾を要求したCO2削減目標が、大きい順に、EUがマイナス28%、米国がマイナス26%、日本がマイナス19%ときちんと格差を付けていたからである

 それにもかかわらず、鳩山氏が明言した日本の中期目標は、現政権の中期目標(2005年比15%削減、90年基準換算でマイナス8%)や、オバマ米政権が国内コンセンサス作りを急いでいる中期目標(2005年比で14%削減、90年基準換算でプラスマイナス0%)を大きく上回るだけでなく、37ヵ国の途上国グループが求めた水準をも大きく上回ったのだ。この事実からだけでも、鳩山案が国際的にみて大変な大盤振る舞いであることはおわかりいただけるはずである。

 とはいえ、鳩山氏に発言の自重ばかりを求める日本の経済界や労働界の関係者にも、筆者は失望を覚えざるを得ない。というのは、実態が国益のぶつかり遭う利害争いである、国連気候変動枠組み条約の長い外交交渉の歴史の中で、の経済、労働界は、産業分野別の国際削減目標の設置というセクトラルアプローチの提案を除いて、日本が交渉をリードできるような建設的な提案を行った実績がほとんどないからだ。対案を示さず、ただ反対意見だけを主張してきただけという印象が強過ぎて、彼らが本当に国民の声を代弁していると言えるかどうかは疑わしい。

国内コンセンサスもなく
不利益な国際公約をする無責任

 だが、日本の採るべき道を探るため、冷静に、国全体として見た場合、中期目標の達成にどれぐらいのコストが必要になるのか、その試算を行うことは非常に大切である。そして、コストの試算結果を国民に情報開示して、その負担をどう分担するかのコンセンサス作りを行うことも、また重要だ。そうしたプロセスを経ないで、国内のコンセンサスを構築しないまま、時の政権がいきなり国際公約を行うことは、あまりにも無責任な行為と言わざるを得まい

 筆者のようなジャーナリストは、本来ならば、現在が、日本の民主主義の歴史に例のない形で政権を奪取しようとしている民主党への政権移行期であることを勘案して、民主党への注文・批判は避けたい時期である。米国の政権交代の例などを見習って、例えば100日程度、意見・批判を挟まず、鳩山新首相のお手並みを静かに拝見したいところなのだ。

 だが、そうした沈黙・配慮は、主に、鳩山新政権が対内的な、政府の組織作りや人事、連立政権作りの協議、新政策の実行の手順などを議論しているケースを想定したものである。CO2排出削減の中期目標のように、国内でのコンセンサスを得ないまま、いきなり国際公約を行うような行為まで許容し、沈黙して見守ることは、ジャーナリストとして、かえって無責任と言わざるを得ないだろう。

 その意味では、鳩山氏は中期目標のディテールをもっと語るべきだった。そもそも、鳩山氏の中期目標が、麻生太郎政権の掲げた中期目標と同じように、国内の削減努力だけで達成しようというものなのか、それとも国際的な排出権取引の利用を前提としたものかが明らかになっていない。そればかりか、全体でいくらコストがかかると見込んでいるのか、その負担をどのように分担するのかといった点も含めて何ひとつ開示されていないのは、あまりにも無責任な話と言わざるをえない

 加えて、現政権が6月に中期目標を策定した際の試算に照らしても明らかだが、中期目標の達成には大きなコスト負担が避けられない。鳩山案が掲げた90年比25%の削減が真水ベースだとすれば、77万人から120万人の失業者の増加、1世帯当たり22万円から77万円の可処分所得の減少、そして同じく11万から14万円の光熱費負担の拡大といった負担を伴うと推計されるのだ

 鳩山氏の念頭には、環境税の新設や国内排出権取引の導入によって、ある程度、負担の再分配を行う案があると推察されるが、それでも、これほど重い負担に、経済危機の最中にある国民が耐えられるとは到底思えない

 鳩山氏は16日にも新首相に指名された後、再来週、米国で開催される一連の国際会合(国連気候変動会議ハイレベル会合開会式、国連総会、日米首脳会談、G20金融サミット)に出席することに強い意欲をみせている。

 そこで、その外遊の際には、今一度、是非踏み込んで提案をしてほしいことがある。

 それは、「90年ベースで25%削減」という、省エネが進んでいた日本に世界のどこよりも重い負担を強いる提案をすることではない。そもそも、「90年比で○○%の削減」というCO2の削減目標の設定を求める京都議定書の枠組みは、各国の絶対的な排出量を無視した「不平等条約」である。2013年以降の削減目標を決めるポスト京都でも、「京都」の枠組みを踏襲することは、不平等条約の延長を受け入れる愚策に他ならない

 むしろ、今、次期首相にお願いしたいのは、7日のフォーラムで次期首相自身が語った温暖化対策の基本的な考え方、つまり「(各国に)共通だが差異のある責任」を、文字通り、具現化する提案を国際社会に対して行うことである。

 具体的には、大至急、人種や民族に関係なく平等な「一人当たりCO2排出量の上限」(キャップ)の国際基準を作成して、国力に応じて、そのキャップの達成年を公約して貰うという新たな枠組みを提唱してほしいのだ。

 温暖化ガスの排出削減は、各国の国民にとって負担を避けられない問題だ。それだけに、実際に排出できる1人当たりのCO2に関して、国際的な不平等、あるいは国家間の不公平を残してしまう、その矛盾にメスを入れられない「京都」方式を踏襲したままで、国民的なコンセンサスと国際的なコンセンサスを得られると考えるのはあまりにも甘過ぎるのではないだろうか

 ポスト京都の枠組みを年内に作ろうという交渉がほぼ暗礁に乗り上げている中で、この状況を打開するには、こうした新たな提案こそ不可欠なはずなのだ。そして、民主党政権による、そうした斬新な提案こそ、国際社会が期待するものだと思われるが、新総理、いかがだろうか。


執筆者プロフィール
町田徹
(ジャーナリスト)
1960年大阪府生まれ。神戸商科大学(現兵庫県立大学)卒。日本経済新聞社に入社後、記者としてリクルート事件など数々のスクープを連発。日経時代に米ペンシルバニア大学ウォートンスクールに社費留学。同社を退社後、雑誌「選択」編集者を経て独立。日興コーディアルグループの粉飾決算をスクープして、06年度の「雑誌ジャーナリズム賞 大賞」を受賞。「日本郵政‐解き放たれた「巨人」「巨大独占NTTの宿罪」など著書多数。

http://diamond.jp/series/machida/10091/


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地球温暖化問題に仕組まれた「偽装」







環境バブルから透けて見える日中米の損得勘定
中国ばかりが"丸儲け" 巨大化する排出権ビジネス

 ここ数年来、経済誌や専門家の間では、「次のバブルは環境ビジネスで起こる」という予測が広まっているが、昨年末ぐらいから、ついにバブルの序章が始まったとの見方が強まっている。その理由は、まず何よりも、今年1月に誕生したオバマ新政権にある。各メディアでも大きく報道されたが、オバマが大統領に就任してまず打ち出したのが、環境分野に予算を重点配分して雇用拡大を目指す「グリーン・ニューディール政策」。これまでのブッシュ政権では、温暖化防止の取り組みを「経済成長を妨げる」と反対していたが、それに真っ向から対立する方針である。

「温室効果ガスについての排出量削減義務を定めた国連条約である京都議定書からもアメリカは離脱するなど、『環境はお金にならない』と一貫していたブッシュに対して、オバマは環境一辺倒。ただ、一部米紙では、政権内部に環境利権に巣食う人脈が入り込んでいるのでは?という指摘もある。 ブッシュは石油、オバマは環境というわけです」(大手紙経済記者)

 そんな環境政策の中でも、とりわけ注目されているのが、「排出権取引」である。排出権とは、二酸化炭素などの温室効果ガスを削減した企業や国が、削減分を売却できる権利のこと。この取引の中心となっているのが、地球規模で温室効果ガスの排出量を削減しながら、裕福な国から貧しい国へお金を移動させる、クリーン開発メカニズム(CDM)と呼ばれる制度である。一般の認識通り、温室効果ガスを排出する権利を、先進国が発展途上国からお金で買い取るビジネスである。世界の市場規模は、08年時点で約10兆円に到達したといわれているが、その現状はどうなっているのだろうか? 日本における排出権取引仲介業のパイオニアであるナットソース・ジャパンの代表取締役・髙橋庸夫氏はこう語る。

「排出権取引は、京都議定書で設定された温室効果ガス排出枠まで先進国が削減できないときに、柔軟性をもった補完的なシステムとして生まれたということを忘れてはなりません」

 排出権取引の多くは、「キャップ・アンド・トレード方式」というやり方で行われている。国や行政単位、企業別に排出量の上限(キャップ)を定め、その上限よりもオーバーした分を買う、あるいは減らした分を排出権として売るのである。建前上、排出権は先進国同士でも売買できるが、流れとしては、温室効果ガスの削減義務を負っていない途上国で排出権を仕入れ、先進国で売ることが多い。

●中国にとって環境問題は絶好のビジネスチャンス

 現在、世界で取引されている排出権の半分以上は中国から仕入れられていると推測されている。しかしご存じのように、中国は、多くの公害問題を抱え、05年実績でアメリカに次ぐ、世界第2位の温室効果ガスの排出国。京都議定書締約時の97年には、「途上国」と見なされ、温室効果ガス削減義務を負わなかったものの、その経済成長からいっても、もはや「途上国」とは呼べない中国が保有する排出権を別の国に売っている、という現状には、果たして整合性があるのだろうか?

「温室効果ガスの削減義務を誰が負うのか? という問題は非常に難しいんです。先進国は電気・エネルギーの使用量も膨大ですし、1人当たりのGDP(国内総生産)を見ても、途上国との間には大きな開きがあります。中国にしても、1人当たりのGDPはまだまだですし、電気がない地域もありますし。ただ、中国とインドをめぐっては、削減義務のある先進国と義務がない途上国という区切りではなく、両者の間に別のステージを設けて、そこに組み込んだほうがいいのでは? という議論があるのは事実です」(同)


 しかし、そういった議論をよそに、売買されている排出権の約6割が中国産となっているのは事実。いったいなぜそこまで中国に集中しているのだろうか?

「それは単純に安いからです。中南米やインドに比べて、中国の排出権は安いし、排出量削減プロジェクトが多いのでスキームも完成されている。現在、取引されている相場は、1トン当たり1000円から2000円程度の金額です。日本の企業が、独力で同程度の排出量を削減しようとしたら、桁が違うコストがかかります。また、政府の干渉があまりないインドなどと比べて、中国では、政府の介入を恐れ、中国企業は今のうちに......」(同)

 二酸化炭素取引の場合、排出権販売で得た収入の2%を中国の企業が税金として政府に支払っているという。しかし今後、その税率が上がる可能性もあり、中国企業は、今のうちに取引をどんどん成立させたいという意識が働いているようなのだ。

 また、中国政府としては、07年の国連気候変動大会において「先進国は、2020年の温室効果ガスの排出量を90年より25~40%削減すべき。途上国は政策措置をもって気候変動への取組みが評価されるべきで、先進国は資金提供や技術移転により、途上国による気候変動対応能力の向上を支援することが求められる」と主張しているが、前出の経済記者はこう解説する。

「こういった中国の態度は、『環境問題は、先進国からお金と技術を獲得する絶好のビジネスチャンス』と読み替えることができます。つまり、中国にとっては、環境問題、特に排出権ビジネスは宝の山なんですよ」

 売る側の主役が中国なら、買う側の主役はイギリスと日本である。中でも日本は今後、かなりの量の排出権を購入する可能性が出てきてたのだ。

「柏崎刈羽原子力発電所の停止によって、年間3000トンの排出増となります」と髙橋氏は言う。新潟県中越沖地震の影響で同発電所が停止、それによって、東京電力の火力発電はさらなる稼動を余儀なくされ、CO2排出量は増加しており、それに見合った排出権を購入しなければならないのだ。

「また、京都議定書に定められた第一約束期間が終わる2012年はもうすぐです。そのときの排出権の相場が現在よりも高くなっている可能性は十分あります。もちろん、国際的な経済情勢や、排出権ビジネスの各プロジェクトの進展をふまえないといけないでしょう」(髙橋氏)

 いずれにせよ、冒頭でも述べたように、グリーン・ニューディール政策を打ち出したオバマ政権によって、欧州と比較した場合、排出権取引に若干乗り遅れ気味だったアメリカも本腰を入れてくるに違いない。

「そういった状況の中で注目されるのが、今年12月にコペンハーゲンで開催される国連サミットです。ここで、2013年以降の排出量の数値の大枠が決められる可能性が高い。2013年は、オバマ政権が存続していれば、ちょうど2期目に入る。現在仕込んだ政策が実を結び、環境バブルが最大の沸点に達するとすれば、まさにこのタイミングでしょう」(前出・経済記者)

 オバマ政権が打ち出した方針を背景に、経済の立て直しを図り、ドル建環境金融商品と呼ばれる、環境政策に関連づけた預金や融資に海外資金を流入させ、環境ビジネスのバブル化を着々と目論むアメリカ、そういった状況を利用してお金と技術を得ようと、たくましい商魂を見せる中国......その一方で、日本の政府は国内の企業の顔色ばかり伺って、明確な環境政策を提示できないままである。このままでは、日本企業は、いつまでたってもお金と二酸化炭素を排出してばかり、というふがいない有り様が続いてしまうのではないだろうか。
(黄 慈権/「サイゾー」3月号より)

http://www.cyzo.com/2009/03/post_1593.html
http://www.cyzo.com/2009/03/post_1685.html

by thinkpod | 2009-09-14 16:41 | 政治経済


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