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2008年 02月 10日

「日本は没落した」はハゲタカの言葉

経済アナリスト 森永 卓郎氏
2008年1月21日

 日本株の下落が止まらない。1月18日の日経平均株価の終値は1万3861円29銭。前日比77円84銭(0.56%)高となったとはいえ、昨年末に比べると1446円も下げてしまった。21日はさらに落ち、午前終値は1万3395円28銭である。

 株下落の原因は、米国の失業率が予想以上となり景気後退懸念があること。そして、サブプライムローン問題が米国の金融機関に予想以上の赤字をもたらしたことが挙げられる。さらに、そのなかで円高が進行しているために、日本にとってダブルパンチとなったわけだ。このままでは日本経済はダメになるという連想が働いたのは、確かに間違いではない。

 しかし、納得できないこともある。本家の米国のダウが、この間に8.8%の下落率であったのに対して、日本株はそれを上回る10%以上の下落率となっていることだ。

 まさに日本経済への悲観が極まった形といえよう。現に、メディアに登場する評論家たちは口を揃えて「日本は没落した」「日本に未来はない」という。だが、それは本当なのだろうか。

 結論から言えば、いま株式市場で起こっている事態はオーバーシュート、つまり、相場が行き過ぎた展開であるとわたしは見ている。数字を一つ一つ検討していけば、現在が異常な状態であることが理解できるだろう。異常な状態は、いつか必ず正常な状態に戻ることは疑いがない。

 日本経済が没落していると言う評論家たちは、表層的な現象だけを見て言っているに過ぎない。さもなければ、何か魂胆があってそう言っているではないかと、わたしには思えるのだ。

日本の株価は過小評価されている

 わたしは去年から、株価が1万2000円台まで下落することもあり得ると言ってきた。しかし、その後に劇的に回復するとも言っている。なぜかといえば、これから外資が日本株を買いにくると考えているからだ。理由は明らかである、実態にくらべて日本の株価がとんでもなく安いからである。

 現在、日本経済は二つの面で過小評価されている。

 その一つは、株式時価総額に対する名目GDPの割合である。実際に、日米両国についてこの割合をくらべてみよう。ただし、時価総額はすぐには発表されないので、1月11日時点で計算したものだ。

 米国の株式時価総額は、1月11日現在で、ニューヨーク市場とナスダックを合わせて、15兆2343億ドルと推定される。これは名目GDPの1.38倍にあたる。

 一方、東証の時価総額はマザーズを含めて451兆円で、名目GDPの88%に過ぎない。これは明らかにおかしい。日本の金融市場の発達の度合いは、ほぼ米国並みとなっている。しかも、市場経済化が進んでいない中国でさえ1.5倍だ。

 確かに、非上場企業はこの数字に含まれていないが、それを考慮に入れても、日本全体の時価総額が名目GDPを下回るという状況は納得がいかない。

 バブル時代に時価総額がニューヨーク市場を上回るという事態が起きたことも異常だったが、現在の状況もまた異常である。

 仮に、日本の株式時価総額のGDP比が、米国並みになるとすれば、それだけで株価が57%上昇しなければならないことになる。日経平均に換算すると、2万2219円の水準だ。いかに現状が安すぎるかがお分かりになるだろう。

為替レートも過小評価されている

 第二の過小評価は為替だ。ここにきて為替が円高になったといって騒いでいるが、わたしに言わせれば、去年までの1ドル=120円というのが、どう考えても異常であった。現在は、単にその調整が進んでいるに過ぎない。

 経済学でいう「購買力平価」という考え方に基づけば、まだまだ円は安い。購買力平価というのは、自国通貨と外国通貨の購買力に合わせて、為替レートが決定されるという考え方だ。

 基準とする年をいつにするのかは難しい問題だが、仮に10年前との比較をしてみよう。すると、米国はこの10年間で消費者物価が30.1%上昇しており、日本は1.9%下落している。

 これはどういうことかと言えば、米ドルはその価値を30.1%失い、日本円は価値を1.9%高めたということになる。これを日本の物価を基準にして計算すると、米国の物価はこの10年間で相対的に32.7%高くなっていることになる。そこで、この分を為替で調整しなくてはならないというのが、「購買力平価」の考え方である。

 ところが、実際はどうか。1997年11月末の円ドルレートが127円だったのに対して、昨年11月末のレートは110円となっている。つまり、10年間で円高は15.4%しか進んでいないのだ。そのために、異常な事態が起きてしまっている。

 日本人にとって欧米の物価は異常に高くなってしまったのだ。マクドナルドのセットを注文すると、米国でも欧州でも1000円以上。タクシーの初乗りも1000円を超える。ロンドンの地下鉄に至っては、初乗りが4ポンド、つまり800円以上である。

 逆に言えば、外国人旅行者にとって、日本は非常に物価が安い国になっている。現に、おびただしい数の外国人旅行者が日本にやってきているのは、ご存じの通りだ。新しく有楽町にペニンシュラホテルというホテルが出来たのだが、そこは1泊7万~8万円というとんでもない値段がつけられている。いったい誰が泊まるのかと思うのだが、これが外国人で賑わっているという。

 それというのも、為替レートにからくりがあるからだ。円で考えるから高いのであって、ドルやユーロに換算すれば、さほど高くないホテルなのである。

日本株はドル建てで1.81倍に大化けする?

 では、10年前の購買力平価が成り立つためには、1ドルがいくらになればいいのか。それは、1ドル=96円である。現状からさらに10%以上の円高が進まなければならないのだ。それではじめて、10年前の状態に戻る。

 製造業は「とんでもない」と言うかもしれないが、1997年はそのレベルでやっていたのである。1997年は特に円高だったわけではない。逆に言えば、それでやっていかなくてはならないのだ。

 もちろん、購買力平価を考える場合、いつの時点を基準にとるかについては意見が分かれるところだが、大方の専門家は、80~90円台が適正為替だと見ているようだ。

 さきほどは、株式時価総額が米国並みの名目GDP比率になれば、日経平均は2万2219円になると述べた。それに加えて、ドルベースで考えると、この円高もリターンに加えることができるから、日本の株価と為替が本来の水準に戻るだけで、ドル建ての日本株投資は現在の1.81倍に化ける可能性があることが分かる。

 さあ、これだけの高いキャピタルゲインが得られるチャンスを、投機資金が見過ごすはずがないだろう。彼らの投機対象が枯渇してきている現状を踏まえれば、なおさらだ。

 このまま株価下落が進むと、現在商品投機に向かっている世界の投機資金が日本株に向けられ、安値で買い占められてしまうのではないかとわたしは考えている。そして、その後、株価が本来の水準に戻っていくことにより、また巨額の利益をハゲタカに持っていかれてしまうのではないか。

株を買うなら安値圏にあるうち

 さて、あなたがここでハゲタカ側の代表者となったとして、どういう意見を述べるのが適切か考えていただきたい。

 正解は次のような発言だ。「日本には未来がない。こんな国の株を買っていたら大損をする」。これから日本株を買うのだから、株価を下げるように誘導すればいいのである。そうして底値になったところで株をごっそりと買い、株価をつり上げてから売るわけだ。

 そう考えると、冒頭で述べた「日本はダメだ」と論評している評論家は、こうしたハゲタカの片棒をかついでいる人たちではないかと勘繰りたくなってくる。さもなければ、まったく経済を分かっていない評論家のどちらかだろう。

 冷静に考えれば、本当に日本がダメかどうかは判断がつくだろう。米国製の車や冷蔵庫を欲しいという人がどれだけいるだろうか。それに対して、日本の車や冷蔵庫なら、いくら高くても欲しいという人は世界にいくらでもいる。

 ましてや、日本の工作機械、時計、計測機器の評価が、大きく落ちたとは思えない。先進国のなかで、日本の技術が落ちたわけではけっしてないのだ。

 こうした状況を考えてみれば、少なくとも株価も為替も、いつかは本来の水準に戻るはずだということが分かるだろう。

 わたしは、「当たるも八卦、当たらぬも八卦」で予想しているわけではない。あるべき姿に戻るとどうなるかを述べているだけである。そして、本来の水準に戻ると、前述したように、ドル建てでみると日本の株価は8割上がるのが必然なのである。株を買うなら今である。

 そもそも株でもうけようとしたら、安値のうちに買って高値で売るというのが大原則である。ところが多くの人は、株が高くなり、メディアが騒ぐころになって買う。そして、株価が落ちてくるとすべて売り払ってしまうのだ。それでは損するために株を買っているようなものである。

 2003年のパブル崩壊後の最安値になったとき、わたしは「いまこそ銀行株を買うべきだ」と言い続けた。そのときも予想屋をしたわけではない。不良債権処理の金額を除けば、膨大な収益を見込めることが数字で分かっていたからだ。

 もちろん、現在下落している株価がどの時点で上昇に転ずるかを言い当てることはできないが、少なくとも今が安値圏にあることは間違いない。安いときに株を買うのが長期投資の基本である。現に、わたしも買い始めた。

http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/o/116/index.html

by thinkpod | 2008-02-10 21:11


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