2007年 04月 03日

利用され、悪用される歴史

オピニオン 慰安婦問題を国際社会が批判するほど日本は態度を硬化させて強く反発するだろう
加瀬英明(外交評論家)

Newsweek日本版 平成19年4月11日号

 このところ、日本では過去をめぐって熱い論争が繰り広げられている。戦時中の日本の行いが、いまだに国民を悩ませている。
 米連邦議会下院が第二次大戦中の慰安婦問題について日本政府に公式謝罪を求める決議を可決するという見通しに、多くの日本人は落胆している。日本政府にとっても意外な展開だ。日本がイラク戦争や対テロ戦争など、アメリカに惜しみない協力をしてきたことに照らすと、なおさらだ。
 国際社会は、日本があらためて気やすく陳謝することを渋る理由が理解できないでいる。しかし多くの日本人は、慰安婦や南京虐殺といった問題がどうして蒸し返されるのかが理解できない。
 第二次大戦以後、日本はアメリカ占領軍によって押しつけられた平和主義に従ってきた。日本のマスコミや知識人は平和主義を謳歌するため、再武装を阻むために日本が好戦的で危険な国だというイメージを作り上げてきた。そして日本軍が行ったとされる残虐行為を誇張したり、でっちあげた。

 1945年に日本が降伏してから間もない頃まで、国民の間に屈従を強いられることを阻む空気が強かった。
 国会は52年に、戦勝国が裁いた東京裁判を含む戦争犯罪裁判の被告を、戦争で戦死や負傷した名誉ある人々と同等に扱うことを全会一致で決めた。また当時の日本の総人口の半分が服役中の戦争犯罪者の即時釈放を求める請願書に署名し、主要政党が戦争犯罪という概念そのものを認めなかった。
 しかし70年代ごろになると、そうした抵抗感が弱まった。戦争の記憶が風化し、経済が急速に成長したからだった。多くの国民が未曾有の豊かさに浮かれ、商売のためなら近隣諸国に許しを請うことをいとわなかった。
 93年に、河野洋平官房長官は日本が戦争中に女性を軍のために強制的に売春させたことを謝罪した。その3年後、終戦50周年の記念日に社会党(当時)の村山富市首相は、戦争中の日本の侵略行為が近隣のアジア諸国に「多大の損害と苦痛」を与えたことを詫びた。

謝罪のメリットがない

 だが最近、長年にわたって影を潜めていたナショナリズムがいくつかの理由によって台頭している。
 まず2000年代初めまで続いた経済不況に見舞われると、謝罪する見返りが明確でなくなった。また、保守本流の安倍晋三首相は53歳で、閣僚や補佐官のほとんどが40~50代だ。この世代にとっては、生まれる前に起きた出来事についてなぜ詫びなければならないのか、実感できない。
 日本のナショナリズムが復活している。中国の異常な軍事力拡張と、北朝鮮の核の脅威によるものでもある。近隣諸国が目先の利益のために、過去の出来事に悪乗りしていると思えることへの反発もある。
 韓国政府は1965年に日本との国交を正常化した際に、慰安婦問題にまったく触れなかった。日本の左翼が、80年代に入ってからこの問題を創りあげたのだ。
 慰安所も、その実態は商業施設だった。米陸軍の報告書によると、慰安婦は「売春婦」であり、日本の官憲による「拉致」の例についてはひとつも見つからなかった。慰安婦の4割が日本人だったことにも注目すべきだ。
 多くの日本の政治家は、南京虐殺は中国が捏造したもので、中国がこれを使って政治経済などの領域で日本から利益を引き出そうとしているとみなすようになった。今年2月と3月には延べ60人以上もの国会議員による勉強会が3回催され、事件を否定する多くの証拠が提示された。

日本の姿勢が劇的に変化

 例えば、中国国民党中央宣伝部は南京陥落後11カ月にわたって300回以上記者会見を開いたが、虐殺について一回すら言及しなかった。蒋介石や毛沢東も、駐日戦争1周年記念日の演説で南京で虐殺があったと言っていない。
 日本の国会議員は最近、「南京事件の真実を検証する」議連を立ち上げた。今後どうあれ、これ以上謝罪することはなかろう。
 日本の姿勢は70年代と劇的に変わった。ここ数十年の間、日本の大半の歴史教科書に日本軍が南京で20~30万人の中国人民間人を虐殺したと記述されていた。現在、このような記述があるのは一つだけだ。
 公立学校では日の丸の掲揚と君が代の斉唱が義務化された。こうした些細にもみえる多くの兆候が、日本の空気が変わったことを示している。
 日本は常識的な防衛力と外交政策を兼ね備えた普通の国として、世界における地位を回復することを願っている。近隣諸国やアメリカが謝罪を迫れば迫るほど、日本の反発が激しくなろう。
(筆者は福田赳夫、中曽根康弘両首相の特別顧問として訪米した)



論評: 不公平に悪口を言われた日本--ニューズウィーク: 国際版

世界観: Hideaki Kase


客論評
加瀬英明
日本人の作者、歴史家

同国の戦時中の振る舞いがその国民を恐れ慄(おのの)かせるべく甦り、日本では最近、歴史が物議を醸している。(歴史問題が喧(かまびす)しい)
多くの日本人は、アメリカの下院議員が近々、第二次世界大戦中に帝国軍が「慰安婦」もしくは性奴隷を利用した、との嫌疑で日本政府に正式な謝罪を要求する、との可能性に失望している。
特に日本のイラクやテロとの戦争でのアメリカ政府に対する前代未聞の支援を考えて、この協議は日本政府を仰天させた。

世界は何故日本がもう一度「ごめんなさい」と言いたがらないか、という理由を理解出来ない。
だが、ほとんどの日本人は、何故慰安婦や南京大虐殺のような問題が再浮上したのか、という理由を全く理解出来ない。
第二次世界大戦以来、同国はアメリカ占領軍によって押し付けられた平和主義を守ってきた。
このような平和さを推進する為に日本のメディアや学識者達は、何が何でも再軍備させてはならない戦闘的な場所として、日本のイメージを作り上げた。
この危険を高める為に、メディアも誇張したり、更には日本帝国軍によって行われたと言われている、卑劣な行為をでっち上げさえした。

1945年の日本の降伏後数年間、多くの国民は、この押し付けられた穏和さを受け容れがたいと考えていた。
例えば1952年国会は、連合軍の戦争犯罪裁判で有罪判決とされた人々が、戦場で殺されたり負傷したりした人々と同様に扱われるよう、全会一致で求めた。
当時の日本の総人口の半数が、投獄されていた戦争犯罪者の即時釈放を求める請願書に署名し、当時の主要政党はいかなる戦争の罪悪感を受け容れる事を拒絶した。
しかしながら1970年代までに、戦争の記憶が薄れ、経済が好況になり始めた中、この抵抗は縮小し始めた。
前代未聞の豊かさに毒され、これが商売に良いと分かれば、日本は喜んで近隣諸国の許しを求めた。
1993年、河野洋平官房長官は、日本が戦争中に女性を強制的に売春させていたと、謝罪した。
3年後、日本降伏50周年に、社会党出身の村山富市総理大臣は、戦争中の日本の侵略行為が多くのアジアの国々に「著しい損害と苦痛」を生じた、と認めた。

しかし近年、長い間姿を顰めていたナショナリズムが、いくつかの要素の為に再び頭をもたげ始めた。
第一に、この10年間の初頭にまで及んだ経済不況の間、謝罪する事の利益は明確さを失った。
第二に、保守派の安倍晋三総理大臣は53歳であり、彼の閣僚と側近のほとんどは40代と50代である。
そのほとんどは、何故彼らが、自分達が生まれる前に起こった事件の贖罪をしなければならないのか、理解していない。

日本のナショナリズムは、中国の憂慮すべき軍事増強と未だ初期段階の北朝鮮の核兵器の脅威によっても、復活させられている。
またそれは、日本の近隣諸国が現在の利益の為に悪い歴史を利用している、と見受けられる事に応じて急増した。
例えば、南朝鮮政府は、同国が1965年に日本政府と国交正常化した時には、慰安婦問題を取り上げすらしなかったのだ。
このトピックを1980年代に最終的に持ち出したのは、日本の左翼主義者達だった。

売春宿は商業施設であった、というのが事実である。
慰安婦達が売春婦であり、日本当局による「拉致誘拐」の例は一件として発見しなかった、とアメリカ軍の記録は明らかに宣言している。
また、これらの女性達の40%が日本人である事も、注記に値する。

多くの日本の政治家達も南京大虐殺は、他の分野で譲歩させるべく日本に圧力をかける為にこれを利用している、中国側のでっちあげだと考えるようになった。
60人以上の国会議員達が、2月と3月に研究会を数回開催した。
虐殺が誤りである事を証明する多くの証拠が提示された。
例えば、中国国民党情報省が南京陥落後11ヶ月に渡って、300回以上の記者会見を実施しているにも関わらず、虐殺については一度も一言も発していない。
蒋介石も毛沢東も、最初の終戦記念日の声明でそれに言及しなかった。

議員達は現在、事実を研究すべく、新たな会を設立している。
彼らが何を発見しても、更なる謝罪は有り得ない。
日本の態度は1970年代以来、劇的に変わったのだ。
例えばこの数十年間、多くの日本の歴史教科書は、日本軍が南京で20万人から30万人の中国人民間人を虐殺した、と非難した。
今日、このような事件に触れている教科書は一冊だけである。
日の丸に敬意を表し、国歌(題名は『君が代』と訳される)を歌う事は、公立学校では義務になった。
これらは些細ではあるが、どのように日本の感情が変わったか、という明らかなサインだ。
この国は普通(ごく当たり前)の国防政策と外交政策を持った、普通の国として、世界にその地位を再び得たいと心から願っている。
近隣諸国やアメリカがより厳しく謝罪を迫れば迫るほど、日本はますます抵抗し始めるかも知れない。

加瀬は福田赳夫総理大臣と中曽根康弘総理大臣の相談役を務めた歴史家であり作家である。


Newsweek誌での加瀬先生の反論-慰安婦問題
http://blog.goo.ne.jp/kitaryunosuke/e/5b392ea093103f5c060776dd3cd277e9/#comment



World View: Hideaki Kase


Guest Commentary
By Hideaki Kase
Japanese Author, Historian

April 2, 2007 issue - History is a hot topic in Japan these days, with the country's wartime behavior returning to haunt its citizens. Many Japanese are dismayed by the possibility that the U.S. House of Representatives will soon demand a formal apology from Tokyo for the imperial military's alleged use of "comfort women," or sex slaves, during World War II. This talk has taken the Japanese government by surprise, especially given its unprecedented support for Washington in Iraq and the war on terrorism.

The world can't comprehend why Japan is reluctant to say sorry once more. But most Japanese can't understand why issues like the comfort women or the Nanking Massacre have resurfaced at all. Since World War II, the country has abided by the pacifism forced on it by the U.S. occupation. To promote such peacefulness, the Japanese media and intellectuals created an image of Japan as a warlike place that had to be prevented from rearming at all costs. To heighten the danger, the media also exaggerated or even invented wretched acts supposedly committed by Japan's imperial forces.
 
In the first years after the nation's surrender in 1945, many of its citizens found this imposed meekness hard to take. In 1952, for example, the Diet unanimously called for the men convicted by the Allied war-criminal trials to be treated the same as those honorably killed or injured on the battlefield. Half of Japan's then population signed petitions calling for the immediate release of incarcerated war criminals, and the major political parties of the day refused to accept any war guilt.

By the 1970s, however, this resistance began to diminish as memories of the war faded and the economy began to boom. Intoxicated by its unprecedented affluence, Japan was willing to ask forgiveness of its neighbors if this proved good for business. In 1993, Chief Cabinet Secretary Yohei Kono apologized for Japan's having coerced women into prostitution during the war. Three years later, on the 50th anniversary of Japan's surrender, the Socialist Prime Minister Tomiichi Murayama acknowledged that Japanese aggression during the war had caused "tremendous damage and suffering" to many Asian countries.

In recent years, however, long-dormant nationalism has begun to rise again due to several factors. First, during the economic slump that extended into the early part of this decade, the benefits of apologizing became less clear. Second, the conservative prime minister, Shinzo Abe, is 53, and the bulk of his cabinet and aides are in their 40s and 50s. Most don't understand why they should do penance for events that occurred before they were born.


Japanese nationalism has also been revived by China's alarming military buildup and North Korea's nascent nuclear threat. And it has spiked in response to the way Japan's neighbors seem to be exploiting bad history for present gain. Seoul did not even raise the comfort-women issue, for example, when it normalized relations with Tokyo in 1965; it was Japanese leftists who finally broached the topic in the 1980s.


The fact is that the brothels were commercial establishments. U.S. Army records explicitly declare that the comfort women were prostitutes, and found no instances of "kidnapping" by the Japanese authorities. It's also worth noting that some 40 percent of these women were of Japanese origin.

Many Japanese politicians have also come to believe that the Nanking Massacre was a fabrication of the Chinese, who are using it to pressure Japan into granting concessions in other areas. More than 60 Diet members conducted several study sessions in February and March. Much evidence disproving the massacre was presented; for example, although the Chinese Nationalist Ministry of Information conducted more than 300 press conferences over 11 months after the fall of Nanking, it never breathed a word about any massacre. Nor did Chiang Kai-shek or Mao Zedong refer to it in statements on the first anniversary of the war.

Diet members are now forming a new caucus to study the facts. Whatever they find, further apologies are unlikely. The country's attitude has changed dramatically since the 1970s. In recent decades, for example, many Japanese history textbooks blamed Japanese forces for massacring 200,000 to 300,000 Chinese civilians in Nanking. Only one textbook mentions such events today. Saluting the rising-sun flag and singing the national anthem (the title of which translates as "Your Noble Reign") have become mandatory in public schools. These are small but telling signs of how Japan's sentiments have changed. The country is eager to resume its place in the world as a normal nation, with a normal defense and foreign policy. The harder its neighbors or the United States push it for apologies, the harder Japan may start pushing back.

Kase is a historian and author who served as an adviser to Prime Ministers Takeo Fukuda and Yasuhiro Nakasone.

Commentary: Japan Unfairly Reviled - Newsweek: International Editions - MSNBC.com
http://www.msnbc.msn.com/id/17770834/site/newsweek/
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by thinkpod | 2007-04-03 23:22 | 国際


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