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2006年 08月 13日

日本や韓国は東アジアのバランサーになれるのか

 太平洋戦争終戦六十年を迎えた昨年、竹島や靖国、歴史教科書問題等で、日韓関係はこれまで以上に悪化した。歴史認識や領土については、中国とも感情の対立が絶えない。加えて、北朝鮮とは拉致問題で具体的な進展を見出すことができないでいる。日本の東アジアに対する外交のあり方について、国も国民一人ひとりも、問われ直された一年だった。
 そもそも日韓関係の歪みはどこから生じたのか。日韓が対立することにどんな意味があるのか。日本と韓国の事情に詳しい、韓国人ジャーナリスト池東旭氏にうかがった。

日韓関係の歪みは十四世紀から

 現在、日韓関係が芳しい状況にありませんが、その背景には何があるのでしょうか。
池 今に限らず、昔から日韓関係は良くありませんでした。十四世紀半ば、倭寇と呼ばれる日本人を中心とした海賊が、朝鮮半島や中国大陸沿岸を荒らし回りました。当時の韓国人は倭寇を非常に怖がったのです。日本に対する現在のような感情が芽生えたのは、倭寇の頃からだと私は思います。もっとも、倭寇には、韓国人海賊も含まれていたようですが。
 古代において、朝鮮半島の百済と倭国はひとつであったと私は思います。唐と新羅により滅ぼされた百済に、倭国は援軍を送りますが、白村江の戦いで唐・新羅連合軍に敗れます。当時の日本はどうして百済に梃入れしたのか。百済と倭国は、百済を本家、倭国を分家とする二重王朝だったのではないでしょうか。
— 古代の日本は朝鮮半島経由で大陸の文化を学んでいましたから、その可能性もありますね。
池 その後、日本では律令国家が誕生して、韓国との接点を持たなくなりました。通商も朝鮮半島を介さず、唐と直接行いました。以来関係が希薄になった日韓間に元寇と倭寇があったことで、両者の関係は歪み始めたと思います。
— 両者の関係には、長い歴史的経緯が影響しているわけですね。
池 倭寇後も、秀吉の朝鮮出兵があり、近代には植民地化されました。倭寇で生じた日本に対する怨恨や憎悪、嫉妬といった感情が、徐々に醸成されていったのでしょう。
 古代の文化・文明に関しては、韓国が日本の兄貴分でした。その文化・文明も元は中国のもので、韓国の産地直送ではないのですが、韓国人の中には、日本はもともと自分たちの弟分であったとの記憶が強いわけです。
— その弟分が増長し、兄貴に対し拳をあげるのは失礼だと言うのですね。
池 しかし、日本人は自分たちのことを弟分だとは思っていない。そこから両者の認識の相違が始まっていると思います。
 昨年は日韓国交正常化四十周年でした。同時に、日本では終戦六十周年、韓国では開放六十周年にあたり、さらに日露戦争終戦百周年でもありました。日露戦争に対する認識も日韓で違います。日本は日露戦争に勝利後、韓国を保護国にし、外交権を剥奪しました。韓国人はこちらを問題視する。そんな折、竹島問題も浮上しました。私は、竹島は韓国の領土だと考えます。しかし、証拠主義の国際法上で争えば、韓国は敗訴すると法学者は言います。だから、韓国が自ら事を荒立てる問題ではないのです。

韓国ナショナリズムが孕む矛盾

— では、なぜ韓国政府は、竹島問題を俎上に載せたのでしょう
池 現在、盧武鉉政権の支持率は下がっています。歴代政権がそうしたように、支持率が下がった際に日本と事を構えると、支持率が上がるのです。盧武鉉政権もこれを狙ったのでしょう。
— 反日こそ、韓国の人心が最も一つになり易いテーマなのですね。
池 そう。朝鮮戦争以降、韓国のナショナリズムの旗印は反共でした。しかし、ポスト冷戦で反共の意義がなくなった。これに代わったのが反米反日です。
— では北朝鮮に対して、今韓国国民はどんなスタンスなのですか。
池 北に対する感情には、非常に微妙な矛盾を孕んでいます。まずジェネレーションギャップがあります。朝鮮戦争が起きたのは一九五〇年ですから、戦争の体験あるいは記憶があり、共産主義に対する拒否反応のある人は、現在六十歳以上です。五十代以下の人は、戦争の記憶もなく、韓国の経済成長の中で育ちました。だから、共産主義の恐ろしさを知りません。韓国の若い世代は、共産主義に対し、憧れに似たナイーブな感情を持っています。そこへ民族意識も加わります。
 かといって統一に諸手を挙げて賛成かといったらそうでもない。韓国のある世論調査で、「もし北朝鮮とアメリカが戦った場合どうするか」という問いに対し、六二%の若者が「我々は北の味方をしてアメリカと戦う」と答えました。ところが「北へ行って住みたいか」という問いには、誰一人イエスと答える者がいませんでした。韓国のナショナリズムが抱える矛盾のゆえんです。
— 盧武鉉政権は北朝鮮に対し、融和政策をとっていますね。
池 いわゆる「太陽政策」は金大中大統領時代からですね。金前大統領は、国内支持率を上げるために、五億ドルを北朝鮮に送り、トップ会談を実現させました。金大中はそれを評価されノーベル平和賞を受賞します。これ以降、韓国では北との協調路線を取るべきだとの世論が盛り上がりました。その流れに乗って当選した盧武鉉大統領が、「太陽政策」を継承するのは当然でしょう。しかし、こうした政策自体も、韓国国民すべてが支持しているわけではありません。

北朝鮮の体制崩壊は時間の問題

— 北朝鮮の現体制が欲しているのは、やはり金でしょうか。
池 金のためならなりふり構わぬ体制です。金日成のルーツは馬賊です。その手口は拉致して身代金をとる。日本人の拉致ばかりじゃない、偽札もつくる、アヘンや武器の密売もやる。ゆすりたかり専門の連中の集まりだと、私は思っています。そもそも北朝鮮を建国した金日成が、抗日ゲリラとして活躍した同名の英雄の名を騙り、北朝鮮の歴史そのものを捏造したという説も事実でしょう。
— 北朝鮮建国時には、当時のソ連が金日成の後ろ盾となったようですが。
池 ええ。金日成はソ連が押し立てました。スターリンの神格化が否定された後にも、彼が権力の座に居られたのは、主体思想を打ち出して、自分の独裁体制の正当化に成功したからです。その思想の構築者こそ、一九九七年に韓国に亡命した朝鮮労働党書記黄長です。
— あの事件は、韓国のみならず、日本や世界にも衝撃を与えました。ところで、今後の北朝鮮はどんな道を歩むのでしょうか。
池 北朝鮮の崩壊は今や可能性の問題ではなく、時間の問題だと考えます。金正日は体制の継続のために経済改革を進めていますが、これは絶対に成功しません。金正日は、韓国で漢江の奇跡と呼ばれる経済成長を遂げた、朴正熙大統領の手法を真似ようとしています。ちなみに、朴大統領が経済開発に成功したのは、日本との国交が正常化し、日本から五億ドルの金が入ったからです。だから金正日は、日本との国交正常化をなした暁に、韓国が手にした当時の五億ドル、現在の価値に換算して百億ドル以上の金を、日本から巻き上げるつもりでいます。
 しかし、金正日の目論見は絶対に成功しません。韓国の経済成長の現場を私はこの目で見てきました。その成功要因は日本からの五億ドルだけではありません。韓国は軍隊六十万人に及ぶ国防費の大部分を、アメリカの援助に頼っていました。対して金正日は百十五万の軍隊を抱え、GNPの三割以上を国防費につぎ込んでいます。これを維持しようとするなら、たとえ日本から百億ドル得ようと経済開発はできません。
— 金正日政権に軍備縮小する気はないのですね。
池 北の強大な軍備は、国内の不満を抑えるためです。縮小すれば、体制への不満が反乱につながりますから、金正日は軍備を縮小できません。また、彼は核も放棄しません。これほど有効な外交カードはないからです。核を持たない北に援助する国などありません。約束を守らない人間は、自分以外の人間が約束を守るとは考えないものです。金正日が韓国を訪れないのも、暗殺を恐れるからで、それは自身が裏切り者であるがゆえに知る恐怖ですよ。

南北統一を困難にさせている課題

— たとえ現体制が砂上の楼閣でも、北朝鮮人民は立ち上がることはしないのでしょうか。
池 北では厳しい連座制を敷いているため、一人でも反体制運動をやれば、家族全員皆殺しになりますから。北の工作船が日本の領海を侵犯し、海上保安庁の船に沈められた時も、最後まで抵抗して死にました。生きて捕まれば、家族は収容所送りになります。しかし、抵抗して死ねば、本人は国で英雄視され、家族も年金暮らしができます。北の人々も韓国人同様、家族愛が強烈ですからね。
— 確かに、韓国の方は皆、家族思いのようですね。
池 イタリアと並んで世界で最も家族思いの民族だと思います。韓国人は、国も信用しませんし、自分が属す組織も信用しません。儒教の伝統もあり、最終的に頼れるのは、家族しかないと思っています。
— ある日突然、北朝鮮が崩壊した時、韓国は経済的に北朝鮮を抱え込むことになると思いますが。
池 ですから、韓国国民も統一に対して、本音では冷めた見方をしているのです。統一にはさまざまな課題があります。第一にコスト問題です。経済力は南と北で三十対一ですから、統一により韓国の経済は大きく減退します。第二に難民問題です。現在でも中国経由で脱北者が年間千人ほど韓国に入国し、累計一万人を超えています。彼らに対し、韓国政府はアパートと定着資金三千万ウォンを提供しました。北の人々は資本主義に適応できません。彼らは住居も職場も政府から割り当てられて暮らしてきたので、自己責任の社会の中では生きていけないのです。第三に、心の三八度線はなくならない。同じ韓国語を使っていますが、すでに北と南では言葉がずいぶん違っています。
 脱北者が一万人の現在でも、こうした問題が山積しています。統一したらどうなるか。ソウルから南北休戦ラインまで三十キロほどです。歩けば一日の距離です。南へ行けば乞食をしても生きていけると考える北の人々が、大挙してソウルに押し寄せます。今、ソウルの人口は一千万人です。全国人口の四割が首都圏に集中している異常な状況です。交通渋滞や大気汚染などさまざまな都市問題を抱えています。さらに北の難民を抱えたら、ソウルは都市として機能しなくなるでしょう。

韓国経済の光の部分、陰の部分

— 北朝鮮に対し、中国はただその崩壊を見守るだけでしょうか。
池 中国は朝鮮半島に、中国寄りの政権を残すことをメリットと考えますから、北朝鮮に梃入れするでしょう。ただし、金正日に対しては別問題です。中国にとってより利用価値のある政権交代を望んでいるはずです。
— 現在、経済の好調な中国も、北京五輪後、不況に陥るのではないかと危惧する声もあります。
池 確かに五輪の後は必ず反動があります。六八年メキシコ五輪、七二年ミュンヘン五輪、七六年モントリオール五輪、いずれもその後、大会開催国は深刻な不況に陥っています。近年経済的にさしたる影響を受けなかったのは、八四年のロサンゼルス大会だけです。当時ロスには既存の五輪施設があり、追加投資をせずに済んだので救われたのでしょう。
 韓国で起きた九七年の経済危機も、八八年の五輪の後遺症だと、私は見ています。五輪の際、大規模なスタジアムや室内プールを建造しましたが、以後使い道もあまりなく、莫大な維持費が掛かるため、これらを持て余している状況です。宴の後の後始末ほど、たいへんなものはないのです。中国が同じ轍を踏まないとは言えません。中国経済は、今物凄い勢いで伸びているように見えますが、二桁の成長率がいつまでも続くと考えたら大間違いです。日本のマスコミも、中国経済に対してもっと冷静に見た方がいいですね。
— 韓国経済は、今立ち直っているように見えますが。
池 日本のマスコミによると、韓国は経済危機以降、構造改革に成功したと高く評価しています。しかし、これは誤解です。立ち直ったかに見えますが、実のところアメリカをはじめとする外資に乗っ取られているような状況です。現在、韓国株式市場の時価総額の四八%を外資が持っており、そのほとんどが優良銘柄です。つまり、一部優良企業が、国外市場を開拓して得た利潤の多くは、外資を潤しているのです。一方で、中小企業は辛酸を舐めています。結果、韓国では貧富の格差が広がっています。また、五百万人にものぼる多重債務者の存在も、韓国経済の足かせになりかねません。韓国経済にも、光の部分があれば、陰の部分もあるのです。
 問題は経済ばかりではありません。先ほど韓国人は家族愛が強いと申し上げましたが、そうした伝統も徐々に風化しつつあります。誰にも面倒を見てもらえない高齢者の自殺が増加しています。核家族化が進行したことで、子どもが親の面倒をみることが少なくなりました。韓国では住宅の六割がアパート、マンションです。都市の場合はこの状況がさらに顕著です。二世帯三世帯は住めません。高齢者たちは田舎に残ったまま、孤独な生活を送っています。
— 都市部に労働人口が集中し、農村部の人口が減少すると、農地が荒れる等の問題も起きませんか。
池 農業も韓国経済に大きな影を落としています。朝鮮戦争の勃発や、その後のアメリカによる政策の影響を受け、韓国の農村農業は、自立できないまま今日に至っています。歴代政権も農業に膨大な国家予算をつぎ込んでいますが、焼け石に水です。農村が自立できないために、内需も拡大しない。その状況は日本以上に深刻です。

大国の論理に踊らされる小国

— 日本にとって、韓国、中国との関係は、重要なテーマです。しかし、たやすく友好が成り立たない、葛藤の歴史が過去にありました。私たちは今後、どんな道を探ればいいでしょうか。
池 まず、日韓がどんな世界勢力の中に位置づけられているか、冷静に判断することが重要でしょう。今後の世界情勢は、海洋勢力つまりアメリカと、大陸勢力つまり中国との対峙になります。中国はすでに政治的に北朝鮮を飲み込んでいます。韓国企業も市場を国外に求め、人の流れも金の流れも中国にシフトさせています。韓国は中国の引力圏の中にも入りつつあるのです。韓国の反米反日は裏を返すと、親中親北です。二十一世紀、日本と韓国が、アメリカと中国の睨み合いの中で、代理対決をすることを私は懸念しています。韓国の諺に、「鯨の喧嘩で海老の殻が剥ける」というのがあります。強い者同士の喧嘩で、割を食うのが弱い者であるとの喩えです。この状況下でどう生き抜くのか、韓国も思案を巡らせているところです。
— 日本も同じ逡巡の中にいると思います。二大強国米中が対立する際、現時点ではアメリカに与するつもりでも、中国があまりに強大になった時、それでいいのかという議論は必ず起るはずです。
池 韓国で反米反日の声はありますが、反中の声は上がりません。中国に対して、韓国は「恐中」なのです。日本が韓国を支配したのは、たった三十五年です。アメリカは五十年です。しかし、中国は千五百年の間、支配を及ぼしました。韓国は中国に対して、潜在的に恐怖心を抱いています。日本に対し、あれほど「謝れ謝れ」と言う韓国が、中国に対しては一言も文句が言えません。
— 裏を返せば、反日とは、日本を怖がっていない証なのですね。
池 そうそう。アメリカも怖いのですが、反米と言ったところで、自信の強い米国は歯牙にもかけません。しかし、中国は違います。反中の声が上がればすぐに反応するでしょう。
— 日本と韓国は隣人として友好関係を築けるのでしょうか。
池 まず、経済力が日韓で均衡になることが条件でしょう。また、日本と韓国が争えば、得をする第三国があることを、私たちは認識しなければなりません。朝鮮半島をとりまく米中ロは、本音では日韓がいがみあっている方が御し易いのです。靖国問題や歴史教科書問題についてもそうです。たとえ戦犯であっても、日本人が自分の先祖の墓参りをすることは当然だと、自国の教科書に自国を悪く書く国などあるはずもないというのが韓国人のホンネです。しかし、積年の想いは消えずに反日を唱える。中国、韓国で起こる反日運動の状況を、一度よく観察してみてください。韓国でデモが盛んになっている最中、いつの間にか中国のデモは下火になっています。中国は、靖国問題や歴史教科書問題をとりあげることで、日本に謝罪させ、これまでに日本から五百億ドル以上のODAを得ています。中国は韓国にけしかけ反日運動をすることで、確実に自国の国益を満たしているのです。中国の前で、日本も韓国も踊らされているようにも映ります。
— マスコミも含め、日本人はその点に関して認識不足ですね。弱小国を手駒のように操ることは、強大国にとっては当然の論理でしょう。
池 韓国人も同様です。国際政治は強大国がしかけるパワーゲームで成り立っていることを、日本も韓国も認識すべきですね。
— 大局的視点を持つことが、日韓双方にとって、コミュニケーションの契機になるかもしれませんね。本日はありがとうございました。



池 東旭 ジャーナリスト
週刊韓日ビジネス代表理事。1937年韓国慶尚北道大邱生まれ。58年「韓国日報」に入社し、外報、経済部記者、海外巡回派遣員を経て、経済部長に就く。81年「週刊韓日ビジネス」創刊。韓国の経済問題、日韓の国際問題などの分野で論評を展開する。
著書に『朝鮮半島「永世中立化」論』(中央公論)、『韓国大統領列伝』『韓国の族閥・軍閥・財閥』(中公新書)、『コリアン・ジャパニーズ』(角川oneテーマ21)、『軍靴を脱いだ韓国』(時事通信社)、『どうなる?朝鮮半島と日本』(草思社)など多数。



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by thinkpod | 2006-08-13 15:47


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