2006年 01月 01日

米政権:「靖国」に懸念 アジア戦略「日本に見直し要求」

 ブッシュ米政権が小泉純一郎首相の靖国神社参拝による日中関係の悪化に懸念を強め、アジア戦略の見直しを日本政府に強く求めていたことが明らかになった。昨年11月20日の北京での米中首脳会談で、ブッシュ大統領は靖国参拝を踏まえ歴史問題について対話の促進を求めた。同行筋によると、大統領発言は胡錦濤国家主席ばかりでなく、小泉首相も対象とした強い注文だった。米政府はこのままではアジアで日本の孤立化が進み、米国の国益にまで影響するとの警戒感を強め、参拝中止に直接言及しないまでも、アジア外交の見直しを迫ることにした。
 日米中政府筋によると、米中首脳会談でブッシュ大統領は靖国参拝に関連して「歴史問題について対話を促進してもらいたい」と従来よりも踏み込んだ形で歴史問題に言及した。胡主席は「中国にとってアジアにおける米国の存在は重要だ」と強調した。
 昨年11月16日の日米首脳会談でも、米側が最も時間を割いたのは中国問題だった。ブッシュ大統領は「中国をどう見ているのか」と対中戦略の説明を求めたが、首相は参拝の正当性を主張したにとどまった。
 一連の米側発言について、ブッシュ大統領のアジア歴訪に同行したマイケル・グリーン前米国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長は12月28日、毎日新聞のインタビューで「中国は歴史問題で日本を悪玉に仕立て、孤立化させるカードとして使っているが、日本にはこれに対抗する戦略が十分ではない」と指摘。大統領発言は日本にアジア戦略の見直しを急ぐよう求める意図があったことを明らかにした。靖国参拝については「大統領は首相の参拝に口をはさまない」と述べつつも「やめるのも一つの方法だ」と米政府内にくすぶる参拝反対論に言及した。
 米政府は昨年10月17日の首相の靖国参拝以来、日中関係の修復が絶望的になったとみて外交ルートを通じて日本政府に「懸念(concern)」を伝えてきていた。ところが一向に改善の兆しがないことから、11月のブッシュ大統領の東アジア訪問での一連の発言につながった。
 米議会内には日中間の反目で中国が対米重視を強めれば経済的な相互依存関係を背景に「日中のはざまで身動きできなくなり、米国の国益を損なう」との警戒感がある。【平田崇浩、ワシントン及川正也】
毎日新聞 2006年1月1日 3時00分
米政権:「靖国」に懸念 アジア戦略「日本に見直し要求」


米政権:国益重視を反映 「ポスト小泉」に影響も

 小泉純一郎首相の昨年10月の靖国神社参拝以降、「懸念(concern)」を伝えてきた米政府の風向きの変化を感じた外務省は危機感を抱き、省内では「靖国問題を利用した中国の『日本孤立化戦略』に対抗するアジア戦略」の構築の必要性が意識されるようになったが、首相官邸との認識のずれもあり、戦略立て直しに乗り出すところまではいっていない。
 米国は中国を「利害共有者(stakeholder)」と位置づけ、国際社会のシステムの一員として、「利益」とともに「責任」を共有するよう求めている。具体的には中国が市場開放、民主化、軍事力の透明化などを進め、国際ルールを守り、ルールづくりに参画する国になるよう促していくのが米国の基本方針。だが米国家安全保障会議のマイケル・グリーン前アジア上級部長が、毎日新聞とのインタビューで指摘したように、靖国問題を利用して中国は日本を「アジアの悪玉」として孤立させる戦略をとっているのに、日本は「対抗する戦略」を持たない。このため「中国への圧力が効かなくなり、中国が国際社会により積極的に貢献する一員となるよう米国が促すのを困難にしている」(グリーン氏)のが現状だ。「東アジアの安定が国益につながる」と考える米国の懸念はまさにそこにある。
 しかし、小泉首相は自説を貫き、中国の対応を批判するばかりだ。米国も、日中関係に「懸念」は示しても「仲裁」するつもりはない。中国側には「しばらく放っておくとの冷めた空気が漂っている」(日本外務省筋)。靖国問題を契機に、アジアでの日本の孤立化と中国の覇権追求が静かだが着実に進行し、日本の近隣外交に対する米国の不安が膨らんでいる。
 9月の自民党総裁選の結果、安倍晋三官房長官や麻生太郎外相ら靖国参拝派が次期首相に就任すれば、さらにその先も日中関係の冷却状態が続きかねない。靖国参拝の懸念から、ブッシュ政権が日本政府にアジア戦略の見直しを促したことは、靖国参拝の是非や対中姿勢に絡んで「ポスト小泉」の行方にも少なからぬ影響を与えそうだ。【佐藤千矢子】
 【マイケル・グリーン前米国家安全保障会議アジア上級部長とのインタビュー要旨は次の通り】
 中国は歴史問題で日本を悪玉に仕立て、孤立化させるカードとして使っているが、日本にはこれに対抗する戦略が十分ではない。日本の戦略がぼやけたままだと中国に圧力をかけられず、米国が中国に国際社会でより積極的な貢献をするよう促すことを困難にする。対処方法の一つは小泉純一郎首相が靖国参拝をやめることだろうが、これは首相自身が決めることだ。
 (昨年11月の東アジア歴訪で)ブッシュ米大統領は各国首脳に近隣外交について意見を聞いたが、どこでも返ってきた答えは歴史問題だった。胡錦涛中国国家主席の発言から、歴史問題は中国の指導者にとって重荷になっていると感じた。
 日中関係の悪化は中国国内でのナショナリズムを刺激し中央政府を突き上げる。胡主席が「米国の存在が重要」と言ったのも、日中関係の緊張感を薄めることができるからだ。実際には胡主席も良好な日中関係を望んでいる。これは心強いことだ。(小泉首相の靖国参拝について)ワシントンでは歴史問題は決着済みという人から、日本には危険なナショナリズムが台頭しているという人もいて議論はさまざまだ。しかし、日本は民主国家であり決定するのは日本だ。ブッシュ大統領は他国のリーダーが正しいと判断した物事は批判しない。【ワシントン及川正也】
 ◇靖国参拝と日中関係悪化を懸念する米国の最近の発言◇
・「(靖国神社は)太平洋戦争での(日本の)軍国主義の象徴。第二次世界大戦での戦犯も合祀(ごうし)しており、日本政府関係者の度重なる神社参拝には抵抗感を感じる」(昨年10月20日付で米下院外交委員会のハイド委員長が加藤良三駐米大使に送った書簡)
・「日中間には非常に複雑な問題がある。歴史の問題は両国で乗り越えないといけない。05年4月の(上海における)日本総領事館などへのデモには憤りを感じるが、両国で解決してほしい」(昨年12月8日、バーンズ米国務次官が訪米した前原誠司民主党代表に)
・「中国は歴史問題で日本を悪玉に仕立て、孤立化させるカードとして使っているが、日本にはこれに対抗する戦略が十分ではない」(昨年12月28日に米国家安全保障会議のマイケル・グリーン前アジア上級部長が毎日新聞のインタビューで)
毎日新聞 2006年1月1日 3時00分
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by thinkpod | 2006-01-01 04:13 | 政治経済


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